第19章 あの星空の彼方に(謙信)
広間に入ると、宴の準備はすっかり整い、
信玄、幸村、佐助は既に自分の膳の前に座っていた。
『お、やっと来たか。おせーぞ、愛』
幸村の声に、謙信の後ろにいた愛はその姿を現し、
深々と頭を下げる。
「みなさん、お待たせしてしまってごめんなさい。
こんな素敵な着物、慣れなくて時間がかかっちゃいました」
そう言って頭をあげると、信玄と幸村の目が愛に釘付けになった。
『おお、これは想像以上の天女が現れたなぁ…
もっと近くでよく見せておくれ。綺麗だ。なぁ、幸』
『は?お、俺に振らねーで下さいよ。
ま、まぁたまには、いいんじゃねーの、そーいうのも…』
信玄は、嬉しそうに愛を見つめ、幸村は頬を赤くして目を逸らす。
「戯言はその辺にしておかないと、斬る」
謙信の本気ともとれるその言葉に、
『ハイハイ。新年早々刀抜かないで下さいねー。
愛さんも、座って座って』
手を叩きながら、佐助が愛を席へと促した。
『ほぉ…名月と美女がいっぺんに見られるなんて、
春から縁起がいいねぇ…まるで本物のかぐや姫の…』
信玄が最後まで言い終わらないうちに、謙信が再び刀を抜こうと立ち上がりかける。
「言うなと言っただろう」
愛には信玄のいつもの冗談に聞こえるが、
謙信の様子が本気のようで、心がざわついた。
「謙信様…」
立ち上がりかけた謙信の着物の裾をそっと掴む。
謙信はその感触に、ハッと息をのみ再び座った。
「すまなかった」
そう言うと、酒に手を伸ばす。
「謙信様、お注ぎしますね」
その酒をそっと奪い、愛は丁寧にお酌をする。
「皆さん本当におまたせしました」
そう微笑めば、佐助が愛の言葉を受け取り立ち上がる。
『それでは、改めまして、明けましておめでとうございます。
今年も良い年でありますように…乾杯』
こうして、春日山城の宴は漸く始まったのだった。