第17章 我儘に甘えて(秀吉)
『あ、秀吉さん、戻ったんですね』
安土城に着くと、廊下の向こうから家康の姿が現れ、声をかけられた。
「あぁ。さっき戻った。今から信長様のところへ行くところだ。
何も変わったことはなかったか?」
『えぇ。こっちは特に変わったことは…
あぁ、まあ俺は全く困りませんけど
さっき政宗さんが、三日くらい三成を見てないって騒いでましたよ』
家康がめんどくさそうな声を出す。
「三成…また寝食を忘れて本でも読んでるのか…。
あとで御殿に寄ってみるか。今寄ればよかったな…」
『まっすぐこっちに来たんじゃないんですか?』
「あぁ。愛のとこに寄って来たんだ」
『愛の様子はいつも通りですか?』
不意に愛の様子を聞かれて、怪訝な顔する秀吉。
「あぁ。特に変わった様子もなかったが…。
お前の羽織を直してるとこだったが、留守中に何かあったか?」
『急がなくていいって言ったのに…。
いえ、特に何かあったかわけではないですよ。何でです?』
「そうか。お前が気にするなんて、何かあったのかと思っただけだ」
秀吉は、何となく腑に落ちない様子で家康の顔を見る。
その様子に、家康は一瞬何かを言いかけるが、
『じゃ、俺は書庫に行くんで』
と、そのまま去って行った。
「考え過ぎか…」
秀吉は呟きながら、天主へと急いだ。