第17章 我儘に甘えて(秀吉)
『愛、帰ったぞ』
「秀吉さん!!」
愛が、家康の着物を直していると、
不意に襖が開いて、ずっと待ちわびた笑顔がのぞいた。
作業の手を止めて、小走りに駆け寄る。
「今日の夜って聞いてたから、お迎えに行けずごめんなさい。
早かったんだね!お帰りなさい」
はにかんだような笑みを浮かべて、秀吉に抱きつく。
『おっと…。ははは、今日も元気がいいな。
ただいま。いい子にしてたか?』
そう言うと、秀吉もふわりと愛を抱き締めた。
(秀吉さんの香りだ…安心する…)
暫く秀吉の暖かさを満喫し、そっと愛が離れる。
「お仕事は無事に済んだの?」
『あぁ。思ったより順調だったから、早くお前の顔が見たくて
馬を飛ばした。政宗には言うなよ?』
いつも家臣を置き去りにして馬を飛ばす政宗に小言を言っている秀吉は、
いたずらっ子のような言い方でそう伝える。
「ふふふ…。政宗みたいに危ないことは秀吉さんはしないでしょ?」
『着物を作ってたのか?』
ふと、愛がさっきまでいた場所に目をやる。
「家康の冬物の羽織がほつれてたんだって。
それを直してたとこだよ」
『ほつれか…』
(ほつれくらい、自分のとこの針子でできるだろうに…)
「どうしたの?」
不思議そうに見上げる愛に、
『いや、なんでもない。あんまり頑張り過ぎるなよ?』
少しの嫉妬心を隠して頭を撫でた。
「秀吉さんは、今日はもういいの?」
『いや、これから信長様に報告したり、
持ち帰った仕事があるから、城へ向かうよ。
ちょっと遅くなりそうだったから、先に愛に顔を見に来たんだ』
忙しいのに、こういう心遣いを忘れない。
(そっか…寂しいけど、こうやって会いに来てくれたんだから
我儘は言えないよね)
『寂しい想いをさせて悪いな…』
「ううん。先に会いに来てくれて、嬉しかったよ!
秀吉さんも長旅だったんだから無理しないでね」
少しの寂しさを隠して笑顔を作る。
(うまく笑えたよね…)