第16章 織物のように(三成)
『今日は晴れて良かったです』
縁側へ座る三成が笑顔で言う。
「うん。とっても綺麗だね」
愛も嬉しそうに月を見上げた。
『えぇ。とっても…。
世の中にこんなに綺麗なものがあるとは知りませんでした』
何処か艶を含む声に驚いて三成を振り返れば、
その目線は月ではなく、真っ直ぐ愛へと向けられていた。
「三成くん…月、見てる?」
恥ずかしくなって、愛はまた月へと視線を移す。
『月よりも、月明かりに照らされている愛様が
とても綺麗なので、目を離せません』
再び三成を見れば、今度は真剣な顔で愛を見つめていた。
「もう…さらっとそういうこと言うんだから…。
さぁ、冷めないうちに食べよう?お団子もあるからね」
照れ隠しのように、食事へと促す。
三成はお膳に飾られた紅葉を一つ手に取る。
『楓…ですか?』
「うん。昼間、庭で拾ったんだ。
お月見と一緒に紅葉もいいでしょ?
三成くんが喜んでくれるといいなって…」
微笑む愛に、三成は満面の笑みを見せる。
『貴女が私のためにしてくれる事で、
嬉しくないことなんてありません。
愛様…ありがとうございます』
そう言うと、楓の葉に小さく口付けた。
(ほんと、一つ一つの所作が色っぽすぎてクラクラするよ…)
三成を直視することができずに、
箸を手に取った。
『いただきます』
三成が手を合わせて、食事をはじめる。
『やはり、愛様の手料理は特別ですね。
一口食べるごとに、嬉しさが溢れます。…あれ?』
ふと、愛の膳を見た三成が不思議そうに声をあげる。
「どうかした?美味しくなかったかな?」
不安そうに聞く愛に、三成は黙って膳を指差した。
「あぁ…三成くんのには人参入れてないよ。
いくら克服したとはいえ、無理して食べなくてもいいんだから」
三成の煮物には避けた人参を指差していることに気づいた愛が答えた。
『愛様と同じものが食べたいです』
「え?無理しないでね?
でも食べたかったらどうぞ」