第15章 勝手な我儘(政宗)
「おはようございます!」
今日も針子部屋に愛の元気な声が響く。
すると、千春たちが駆け寄ってきた。
『愛様…ありがとうございました』
「え?なんですか?大福の事なら政宗に…」
驚く愛に、千春と佐江が同時に首を振る。
『違うんです…。あの、昨日の愛様のお話を聞いてから、
もしかして自分が何か思い違いをしてるのではと思って考えていたら、
主人の同僚の方から、思いがけず話を聞いてしまって…』
千春が恥ずかしそうに俯きながら話し出す。
「何があったんですか?」
自分のいつもの席に腰を下ろしながら二人の話を聞く。
『主人が、私を送り迎えしている理由です…。
私は全然気づかなかったんですけど、ある日の帰り、市で買い物をして帰った時、
重い荷物で私の手が真っ赤になっていたそうで…
針子の私の手が、痛めてしまっては仕事にならないだろうと…』
「それで、ご主人は行きも帰りも千春さんの荷物を持ってくれてたんですね」
愛はほっこりした気持ちで、自分の事のように嬉しくなる。
『私も…愛様のお話を聞いて、昨日もう一度煮物を作り直したんです。
昨日のは美味しくなかったでしょって、謝って…』
今度は佐江が話し出す。
『そしたら、お前が自分の好物を用意してくれたのに、
文句言うはずないだろって、ありがとうって逆に言われてしまって…』
二人共、恥ずかしそうに話すが、その顔はとても幸せそうだ。
「良かったですね!でも私は絶対お二人とも愛されてるって確信がありましたから」
愛は二人の手をとって笑う。
『愛様と政宗様のお話を聞かなければ、私たちはまだ誤解をしたままだったと思います』
そう言って再び頭を下げる。
「いえいえ。昨日、政宗が言ってました。
《思いやりの押し付けは、息がつまるだろ》って。
だから、私達はこれからも《勝手に》やりたいようにします。
それで、良くないですか?」
その言葉に、二人は笑顔で頷く。
『そうですよね!
私達も、勝手に生きて行くことにします』
(みんなが幸せだと、やっぱり嬉しい。ありがとう政宗)
笑い声の響く針子部屋で、愛は幸せな気持ちが溢れていた。
第十五章 終