第15章 勝手な我儘(政宗)
「あれ?あそこにいるの、千春さんかな?」
愛と政宗の少し前を歩く男女を指して言う。
『あぁ、そうじゃねぇか?相変わらず仲が良さそうだな』
そう言って笑う政宗の言葉が、今朝の千春を思うと少しだけチクリとする。
「そうだよね…仲良いよね?」
顔を曇らせる理由は政宗にもわかっていた。
『千春だって、きっとわかってると思うぞ』
「え?」
政宗の言葉に驚く愛。
「もしかして…聞いてたの?」
『あぁ…ちょうど声かけようとした時だったからな』
「てことは…」
言葉を濁して愛が顔を赤くしながら俯いた。
『おう。バッチリ聞いてた』
面白そうに政宗が笑う。
「みんな…幸せだといいな…なんて、私が呑気なだけなのかな」
照れ笑いを浮かべて政宗を見上げる。
政宗は、口元に笑みを浮かべて、
何も言わずに愛の頭をくしゃくしゃと撫でた。
そして、少し強めに手を握る。
『それが、お前の良いとこだから、気にすんな。
だいたい、思いやりなんてもんは、押し付けたら息が詰まるもんだろ。
だから、俺たちは《勝手に》生きてればいい。ほら、早くしないと日が暮れるぞ』
愛も政宗の手をそっと握り返す。
(思いやりの押し付け…か。政宗らしいな)
《勝手に生きる》その意味を知ってるから、
その言葉には、優しさが溢れてるように感じられた。