第15章 勝手な我儘(政宗)
「政宗、いる?」
仕事を終えて、言われた通り安土城内の政宗の仕事部屋へと足を運ぶ。
『おお、入れよ』
中から政宗が返事をすると、愛は襖を静かに開けた。
『早いな。もう終わったのか?』
声をかけながら、自分の隣をトントンと軽く叩き、
愛に座るように促した。
「うん。今日はお城の仕事はなかったからね」
そう言うと、大事そうに包みを置き、政宗の隣に座る。
「政宗はまだかかるでしょ?
待ってるから、気にせずに仕事してね」
『いや、もうすぐ終わる。
俺も今日は特に急ぎの仕事はないんだ』
そう言うと、愛の頭をポンポンと撫でた。
「もしかして、差し入れ持ってきてくるためにわざわざこっちにきた?」
『それだけでもないけど、まぁそんなとこだ』
「ありがとう!みんなすっごく喜んでたよ!
あれって、私が前に話した苺大福真似てくれたの?」
前に、愛がいた時代の菓子を教えろと言われて、
ふと思いついた自分の好物、苺大福の話をしたのを思い出す。
政宗が差し入れてくれた大福の中には、
蕩けるように熟した柿が丁寧に包まれていたのだ。
『あぁ、柿でも中々合うだろう?
お前の言ういちごってやつは、多分この時代にはなさそうだからな。
甘くてみずみずしいって言うから、柿でもできるんじゃないかと思ったんだ』
「うん!お茶にも合うし、苺よりも好きかも!
ごちそうさまでした」
『よし、じゃそろそろ御殿に帰るか。
今日は市に寄ってくぞ』
「何か買っていくの?」
『あぁ。良い魚を仕入れておくように頼んであるからな』
そう言うと、先に立ち上がり、手を差し出す。
「うん!」
と、一つ返事をして愛はその手を取って立ち上がった。
『これ、持って帰るんだろ?』
愛が大切に抱えてきた包みを反対側でひょいと持ち上げる。
「あ!政宗いいよ、持つから!」
慌てて手を出すが、
『いいから。この感じは着物だろ?
軽いから気にするな』
そうして、手を繋ぎ仲良く安土城を後にした。