第15章 勝手な我儘(政宗)
(今日は見事な秋晴れだな)
政宗は安土城の廊下から空を眺めて目を細めた。
(こんな日に愛と出かけたら気持ちいいだろうな。
よし、今度の休みが晴れたら、久しぶりに遠乗りするか…)
そんな事を考えながら、愛のいるであろう針子部屋に急ぐ。
部屋の前に着くと、中から針子達の声が聞こえてきた。
『政宗様は、本当に幸せ者ですよね…』
(ん?俺の話か?)
障子を開けずに、耳をそばだてる。
『それにひきかえうちの旦那は…』
(この声は千春か。あいつの旦那はおしどり夫婦よろしくやってるはずだが…)
『私も政宗様のような方と夫婦になりたかったです。
あの人は、私のこと侍女程度にしか思ってないんですよ…』
(おいおい、そんな事ないだろう…)
『あー、わかります!うちも…』
さっきまでの清々しい秋晴れに目を細めていた気持ちは、
すっかり胸の内をざわつかせていた。
(愛も…まさか不満があるんじゃ…)
「え?そんな事ないですよ?
着物のほつれとか直しておいても、特に何も言わないし…」
聞こえて来た愛の言葉に、胸が苦しくなる。
(いや、だって、それは…伝わってるだろ…)
いつも、些細な事に気づいてそっと助けてくれる愛には感謝をしていた。
都度、言葉にはしないが、それを別のところで返そうとしている。
だから今日だって…。
そんなモヤモヤとした気持ちを見透かされたように
愛の言葉が響く。
「それでいいんですよ。
そもそも私は政宗に褒めて欲しくてやってるわけではないですから」
(え?)
「政宗は勝手にやりたいように生きてますから。
それは私も同じです。
勝手にやりたい事やってるだけです」
その声を聞くと、一瞬にしてさっきまでの穏やかな気持ちが政宗を包んだ。
「おい、入るぞ」