第15章 勝手な我儘(政宗)
「でも、千春さんの旦那様は、毎日お迎えに来て下さるじゃないですか」
織田家の家臣として働いている千春の主人が、
行きも帰りも仲良く一緒に居るのは針子仲間でも有名だった。
『あれは、たまたま行く場所が同じだからですよ。
今日だって、持たせる昼餉の準備が遅れただけで、
ずっと玄関で〈まだかまだか…〉とうるさい事…』
(千春さんのこと、ちゃんと待っていてくれてるんだな。優しい旦那さん)
『あの人は、私のこと侍女程度にしか思ってないんですよ』
「そんな事…」
『あー、わかります!』
今度は佐江という針子が話し出す。
『うちも、昨日、主人が好きだろうから南瓜の煮物わざわざ作ったのに、
無言で食べきったんですよ?美味しいのかどうかもわかりゃしない。
その後に口にしたら…ちょっといつもと味付けを違えてしまったようで美味しくなかったし…
無言で不味って思ってたんでしょうね。腹がたつ!』
(美味しくなかったのに食べきったってことは、嬉しかったんだよね…)
『愛様はそんな事ないでしょう?
政宗様なら、全て褒めてくれそうですもんね』
「え?そんな事ないですよ?
着物のほつれとか直しておいても、特に何も言わないし、
書状の整理もしても、普通に過ごしてますし…」
その言葉に針子達は驚き、そして落胆する。
『なんだ…政宗様でもそんなものなのですか…』
その言葉に愛は慌てて被りをふる。
「い、いえ!それでいいんですよ。
そもそも私は政宗に褒めて欲しくてやってるわけではないですから。
ほつれていたの気づいてて、またそれを着るってことは、
直ってることがわかっているからで、
書状の整理も、そのまま仕事をしているのは、きっと仕事が煩わなかったから」
その言葉に更に二人は驚愕する。
『愛様はそれで満足なんですか?!』
愛はにっこり笑うと、
「勿論です。政宗は勝手にやりたいように生きてますから。
それは私も同じです。
勝手にやりたい事やってるだけです。
あ、勿論、嫌がるようなことはしませんけどね」
あっけらかんと言い放つ愛に、針子達は言葉が出なかった。