第14章 あなたへの恋文(家康)
久しぶりに二人で取る食事。
豪華なものを食べているわけじゃない。
(こんなに食事って美味しかったっけ…)
そんな事を思うだけで顔がにやけてしまう。
「家康、ご機嫌だね」
そんな家康を見ながら、愛がふにゃふにゃと笑う。
『だって、大好きな人と食べると、全部美味しいから』
素直な気持ちを口にする家康に、戸惑ってしまう。
「わ、私も…。家康がいたら他に何にもいらないもん…」
『…っ」
食事の手を止めて、立ち上がると、
ふわっと後ろから愛を抱きしめる。
『そんな事言われたら、早くこっちが食べたくなる』
「い、家康、ご飯はちゃんと食べないとダメだよ!」
慌てて身体を捩ると、
ふふっと笑って家康が離れる。
『今更そんなに照れないでよ』
「家康にだったら…ずっと照れるよ…だって…」
『待った!それ、後でゆっくり聞くから』
そう言う家康は耳まで真っ赤にしていた。
食事を終えて、お茶を飲みながら、家康が愛を呼ぶ。
『愛…こっちきて』
ポンポンと自分の膝を叩く。
照れて俯きながらも、素直にそこに収まる。
愛を膝に抱えながら、懐から櫛を取ると
優しくその髪を解く。
「え?」
振り返ると、強制的に前を向かされる。
『だめ』
ゆったり優しく髪を梳くと、その櫛を愛に渡す。
『お土産』
渡された櫛は、文箱と同じように綺麗に塗られていた。
その櫛を愛おしそうに撫でる。
「ありがとう…あっ!」
何かを思い出した様に、愛が立ち上がり、文机に向かうと、
一つの文を持って戻る。
家康の前に座ると
「あのね…家康が出発する前の日、本当はこれ書いてたの…
ふた月も前のだから、まだ上手くかけてないかもだけど…」
そう言って、渡せなかった恋文を渡す。
それをそっと開いて読んだ家康は何も言わずに机に向かい、
朱色の筆を取ると、愛が一番伝えたかった最後の一文を全て消す。
「え?そんなに駄目だった…」
そして、その隣に書かれた添削…
俺の方がもっともっともっと
愛が思う以上に愛してるから
あなたへの恋文 終