第14章 あなたへの恋文(家康)
「もう暗くなっちゃう。急がなきゃ…」
家康の御殿に辿り着く頃には、すっかり日も落ちかけた。
届け物をしたら、次の仕事が舞い込む毎日だったが、
今日は一件も依頼がなかった。
疲れた足取りで御殿の玄関を潜る。
あれ?
なんだか、雰囲気が違うように感じる。
『愛様、お帰りなさいませ』
迎えてくれたのは、家康の家臣。
「え?」
家康と一緒に行っていたはずの…
「家康!!」
秀吉が居たらお小言を言われそうなくらいに廊下を走る。
息を切らして襖を開けると、目の前には文机に突っ伏している
猫っ毛の愛しい人。
「家康…お疲れ様…」
安堵と愛しさが溢れ出て、涙になる。
そっと羽織を肩にかけて、その姿を眺める。
「あれ?」
ふと、自分の文机に目をやると、見たこともない文箱があった。
綺麗な塗り物に、綺麗な楓が施された美しい文箱。
そっとそれを開けると、そこには自分が今まで送った恋文が綺麗に並べられて居た。
その一つを取り、封を解く。
「えっ!」
そこには、朱色の筆で添削された自分の文と、
もう一枚、その返事の恋文。
「家康…」
家康からの返事には、今までとは違う甘い言葉たち。
どれだけ逢いたかったか
どれだけ愛しているか
溢れるほどの愛情がそこには認められていた。
そして、日が経つにつれ、添削はどんどん減っていく。
昨日書いた文の返事には、
もう、添削しなくてもいいくらい上達したね
の一言。そして
だから、もっといっぱい俺のためだけに恋文を頂戴
涙はもう、嗚咽に変わり、声を殺すこともできなかった。
『遅い』
ふと、大好きな香りに包まれる。
夢にまで見た、大好きな人の声が、温もりが、自分を包んだ。
「いえ…や…す」
振り返ると、少し困ったような大好きな人の顔。
『泣かないで…』
その声に一生懸命笑顔を作ろうとするが、上手くいかない。
『ぷっ…酷い顏』
「だって…家康が…」
そう振り返って自分も家康を抱きしめた。
『愛の香り…。ずっとこうしたかった。
寂しい想いさせてごめん。…愛してる』
声にならない分の気持ちを腕に込める。
「おかえりなさい、家康」
『うん。ただいま』