第14章 あなたへの恋文(家康)
「家康様、お帰りなさいませ」
御殿に着くと、女中や家臣たちが出迎える。
けれど、その中に愛の姿は見つからない。
何だよ…逢いたかったの、俺だけなの?
少しの苛立ちを抱えながら、適当に
『あぁ…』
とだけ答えて自分の部屋に向かう。
「家康様、本日愛様はお仕事のため外に出られております。
おかえりは夕刻と伺っておりますので」
愛付きの女中が声をかける。
ちょっと…何も帰る日に外に居なくても…
愛に一刻も逢いたい一心で馬も飛ばしてきたって言うのに。
家康が今日帰る事は事前に信長宛に伝えて居た。
勿論愛にも伝わってるはずなのに…
家康の帰り。
それを知った政宗たちは、愛には内緒にしようと言い出したのだ。
帰った時にあの恋文の量を見たら、家康はどう思うだろうな
そんないたずら心を胸に。
家康が部屋に入ると、立つ時と変わらない綺麗な部屋。
いつものように、生き生きとした花が生けられて、
ほのかに香る愛の香り。
逢いたい…
無性に逢いたい。
今すぐ帰ってきてよ…
そんな家康の目にとまるのは、文机に山のように重ねられた書状。
『はぁ…ほんとうに凄い量。何なんだよ…』
ため息をつきながら一つを手にする。
『えっ…』
目に飛び込んだその文字は、いつの間にか上達しているけど
見間違うはずのない愛しい人の文字。
それに気づくと、全ての書状を慌てて確認する。
『全部愛からの…』
家康が出発した日から、一日も欠かさずに送られたその恋文は
二ヶ月分の量。
『ほんとだ…今日中に全部確認しないと…』
なぜか目の奥が熱くなる。
子供の頃の泣き虫だった頃に戻ったみたいだ。
人って幸せでも涙が出るのか…
泣いてなんかやらないけどね…
そんな事を呟きながら中を確認する。
そこには、素直な愛の気持ちが溢れて居た。
今すぐ逢いたいです
一人の褥は寂しすぎます
身体は大丈夫ですか
早く元気な顔が見たいです
『いつの間にこんなに上達してるの…』
そこには、もう添削なんか必要ないくらいの綺麗な文字が溢れて居た。