第14章 あなたへの恋文(家康)
家康は、毎日をこれでもかと言うほど忙しく過ごしていた。
秀吉が先に安土に帰り、やる事は次から次へと溢れている。
しかし、その甲斐あって、この国の民たちは家康を心から信じ、
また、家康もこの国が豊かになって行くようにと最善を尽くしていた。
『あーーー。疲れた…』
いつもはこんな事口にしない。
それでも、夜遅くに一人の部屋で突いて出た言葉。
安土にいても、疲れる日は沢山あった。
戦の帰りだってそうだ。
今までの自分は、
ヘトヘトになって帰っても、誰にも弱みは見せなかった。
付け入れられればそこで終わる。
愛と出会ってからは、こんな疲れも感じなかったな…
そんな事をふと思う。
正確には、どんなに疲れて帰っても、
あのふにゃふにゃした笑顔で、ただ一言
「おかえりなさい」
って声を聞けば、疲れなんて忘れてしまう。
どんな負の感情も、一度口付けて、抱きしめたら、
びっくりするくらい立ち所に消えてしまう。
それを知ってしまったら、元になんて戻れない。
『愛…』
一人の部屋で、呼んでみてもそこには静寂だけが待っていた。
『弱くなったな…』
フッと声を漏らして自嘲する。
『あーーーー、俺の馬鹿。
ほっんと腹たつわ!なんでもっと甘やかしてから来なかった!』
一度、仕事にかかれば、もちろん集中しているし、
むしろこの状況で脇目を振っている場合ではない。
けれど、こうして一人暗い部屋に戻って来れば、
直ぐに思い出すのは愛の事。
それも、あの泣きそうな…
きっと、今頃自分を想って寂しがってる。
自惚れでもいい。
愛はそう言う子だから。
帰ったら、沢山甘やかす。
言えなかった言葉も全部言う。
あの日、愛が渡せてなかった文を必ずもらう…
毎日毎日、
そんな事を思っていると、いつの間にか瞼は閉じられ、
そしてまた朝を迎えてしまうのだった。