第14章 あなたへの恋文(家康)
家康…いつ帰って来るのかな…。
愛は、一人の部屋で家康に渡せなかった手紙を開いていた。
見送り出来なくてごめんなさい
帰ってきたら一番に逢いに行きます
どうか無理はしないで下さいね
家康が出立してから、交換相手のいない恋文が溜まっていく。
家康からの文よりも、渡せない文の数が増えてしまった。
それでも、帰ってきた時に全部渡せるように…
毎日の想いを込めて書き続けた。
あの日、なんで渡さなかったんだろう。
別に自分まで意地を張る理由はなかったのに。
結局、見送りもできなかった。
頼んでも無理だったのは明らかだったけど…
せめて、あの文を渡せていたら…
あの日渡せてなかった文に書いた言葉を
指でなぞっては、ふとすると溢れてしまいそうな涙をぐっと堪える。
【あなたが想うよりずっと、あなたの事を愛しています】
伝えたかったな…
家康がいなくても、時間は過ぎ、明日はくる。
それでもやっぱり、隣に愛する人がいない時間は、
一緒にいる時間より長くて長くて、
永遠に終わらない一日のような気がしてしまう。
特に夜は、寂しくて、怖くて、長くて…
その一人ぽっちを紛らわせるために、
いつも空が白みかけるまで、行燈を灯し着物を縫う。
政宗は見兼ねて、家康が戻るまで自分の御殿に来いと行ってくれる。
でも、誰かのそばにいたから紛れるわけではない。
それに、帰ってきて他の人の近くにいれば、
家康が良い顔をしないだろう。
「愛する人に、悲しい顔はさせたくないから」
そう言って、笑顔で断る愛を見ると、
もう、誰も何も言えないのだ。
そして、今日も愛する人への文を書く。
ここには素直な心の声が出せるから。
早く帰ってきて下さい
寂しくて 寂しくて 壊れてしまいそうです
早く 家康の温もりを 感じたい