第14章 あなたへの恋文(家康)
『何とか思惑通りに行ったんですかね』
家康は、ほぼ沈静化している戦さ場を見て、秀吉に声をかける。
「まぁ、そうだな。相手国の大名もあっさり降参したし、
平民兵には殆ど被害も出てないようだし…ただなぁ…」
謀反はあっさりと収められた。
しかし、国の疲弊の仕方が思った以上だったのだ。
『まったく…。どれだけ搾り取って兵力に変えてたんですかね、
この国は…。もう、生きていける余力が無いに等しいですよ』
家康は、先ほど視察したばかりの、
荒れ果てた農村地区を思い出していた。
「まぁ、これも一応想定して三成が隣国に内通していたが、
ちょっとこれは任せて帰るわけにはいかないな…」
予め、国が疲弊していた場合を想定して、
近隣国からの援助がされるように手を尽くしてあったが、
この国の荒れようは、小さな国が寄せ集まって救えるほどの現状でもない。
秀吉は、すぐさま信長宛に文を出し、
暫くこの場所に残り、直接指示を出せる環境を整えたいと申し出た。
「暫くは一緒にいるが、いずれ家康を残して先に戻ることになるとは思う。
その後は任せて大丈夫だな?」
信長の側近である秀吉が、いつまでも滞在する事は難しく、
その後は家康に託すようにとの返事が来たのだ。
『まぁ仕方ないですね。乗りかかった舟ですし。
二月もあれば、何とか纏められるんじゃないですかね』
(ふた月…こんなにかかる予定じゃなかったからな…
愛、心配してるだろうな)
ふと気をぬくと思い出してしまうのは、
愛の傷ついた今にも泣きそうな顔。
そして、どうして文で素直に気持ちを書かなかったのかという後悔。
もし、あの文に素直に気持ちを書いてあげられていたら、
心配する愛を少しでも慰められたかもしれないのに…。
それよりも…
むしょうに逢いたい。抱きしめたい。
好きだって言いたい。ただそれだけかもしれない。
出発前に秀吉に言われた言葉が、まさかこんな形で後悔に変わるとは思わなかった。