第14章 あなたへの恋文(家康)
再び家康が目を覚ますと、やはり愛はいなかった。
いい加減身体をおこせば、いつも愛が持ってきてくれる着物が
既に枕元に用意されている。
『愛?』
着替えもせずに寝間着のままで襖をあければ、
ちょうど女中たちが朝餉の用意をしているところだった。
『愛知らない?』
直ぐそばの女中を捕まえて訊く。
「家康お忘れですか?今日は、姫様は信長様と御大名様の謁見で
朝早くお城の方へ参られましたよ?」
あぁ、そうだ。すっかり忘れてたいた。
だから愛は昨日の朝餉を作ってくれたのだ。
今日は織田家ゆかりの姫という立場での謁見。
朝早くから着飾って準備をしているのだろう。
(謝り損なった…)
そしてもう一つ思いつく。
明け方に愛が居なかったのは、
きっと目の腫れを取っていたのだろう。
前に家康が教えてあげた薬の作り方は、
薄荷を使うため匂いがきつい。
きっと、家康を起こさないようにと、他の部屋に行っていたのだろう。
『はぁ…しかたない。
愛も頑張ってるんだし、こっちも気合いれますか』
着替えを済まし、早めの朝餉を取る。
家康は、秀吉の御殿に向かう。
『おはようございます、秀吉さん』
「あぁ、家康か。おはよう。
なんかお前顔が疲れてるけど大丈夫か?」
家康の顔を見るなり、秀吉が訝しげな顔をする。
「家康様、おはようございます!
愛様とはお話なさいましたか?」
その隣では今日も朝からキラキラと笑顔を振り撒く三成が、
思い出したくない事を言ってくる。
『うるさい。愛はもう謁見に向かってる』
「あぁ、そうか、信長様と諸大名に挨拶は今日だったか。
ん?家康、お前愛と何かあったのか?」
三成の言葉を受けて、秀吉が再び訝しげな顔をした。
『別に…。ちゃんと夕べも顔合わしてますから』
「そうか。ならいいけど、あんまりわだかまっておくなよ?
お前は天邪鬼なところがあるから。気持ちは直ぐに伝えないと後悔する時がくるぞ」
この時、秀吉の言う"後悔"が本当にやってくる事を、まだ家康は知らなかった。