第14章 あなたへの恋文(家康)
夢の事も思い出す暇もなく、秀吉と打ち合わせをしたり、
同行の家臣たちとの最終確認をしていた。
今回は視察ではあるが、近くで謀反の噂もあり、
少し緊張感のある仕事だった。
午後になり、ひと段落ついたところで
書簡の確認に一度御殿に戻った家康は、
とんでもないものを目撃してしまう。
(なんであいつが此処にいるんだ?)
それは、忘れてた夢を思い出させるには十分な光景だった。
薄紫の見慣れた羽織、いつまでもなくならない寝癖…。
(三成…)
柱に背を向けて、誰かと話をしている。
(まさか…な)
近づいて行くと、そこに見えたのは
笑顔で三成と話をする愛の姿があった。
(なんでだよ!)
その手元には、文のようなもの。
夢と全く一緒だった。
いや、唯一違うのは、愛は普通に笑顔で話をしていたのだが、
今の家康には、そんな細かいところは関係なかった。
悪夢からはじまり、明日の準備の忙しさに追い立てたれていた矢先のこの光景。
ずかずかと二人に近づくと、
『愛!三成!何してんだよ!』
気づけば声を荒げて怒鳴っていた。
『あ、家康様、お帰りになったんですね。
お戻りにならないかと思ったもので…』
三成がいつものスマイルで話しかけるが、
『戻らなかったらなんだよ。
愛も、俺がいなかったら誰とでもっ…!』
そこまで言ってハッとする。
愛は最初の怒鳴り声で驚いた顔をしていたが、
今の家康の一言で何を言われるのかを悟った。
その顔はみるみる曇り、今にも泣き出してしまいそうな程悲しい顔をしていた。
(あれ…なんか違うな…まずい…俺今、何を…)
夢との違和感。
当たり前だ。夢と同じ事が起こると、なぜ自分が信じていたかわからない。
確か…夢で三成と愛が話していたのは安土城の廊下だった。
此処は家康の御殿。
そして、よく思い返せば、愛は普段と変わらない表情で三成と話していた。
何より、夢で自分に怒りをぶつけてきた愛は、
今すぐそこで必死に涙を堪えているのだ。
そんな事を思っているうちに、愛は何も言わず踵を返した。
『あっ!愛さま!
家康様…いかがなされたのです?』
突然の事に三成がキョトンとした顔で家康を見ていた。