第14章 あなたへの恋文(家康)
そこから、愛と家康の交換恋文が始まった。
愛の書く文は、朱色の筆で添削されて戻ってくる。
「お習字の時間思い出すな…」
そして、出した文には必ず家康の返事が返ってくるのだ。
しかし…
「家康…もう少し…もう少し甘い内容でもいいんじゃないかな…」
添削されて返ってくるので、書きたい言葉はちゃんと書けるようになる。
けれど、どうも家康から返ってくる文は恋文というよりは、
本日の業務報告のような内容が多かった。
「まぁでも…きっと恥ずかしいんだろうな。
改めてこう言う方が」
つぶやきながら、ふふっと笑みを漏らしていると、
『まだ起きてたの?』
と、寝間着に着替えた家康が入ってきた。
「ねぇ?家康、確認なんだけど、これ、恋文だよね?」
『なんで。そうだけど、文句あるの?』
そう言いながら、褥へと潜り込む。
「文句と言いますか…、もう少し甘い言葉とか書いてくれてもいいんだよ?」
戯けたように愛が言う。
『ふぅん。たとえば?』
「好き…とか?」
『後は?』
「愛してる…とか…」
『他には?』
「……」
『もうないの?』
顔を真っ赤にして俯いている愛に、家康は意地悪な笑みを浮かべる。
「もう!絶対わざとでしょ!!」
『いいから。そんなとこで喚いてないで、
早くこっち来て。甘い言葉、教えてよ』
そう言うと、家康は布団をめくり自分の隣をポンポンと叩く。
(家康には、ほんと敵わないよ…)
愛は、行燈の灯りを消すと、そっと褥に潜り込んだ。
『愛…好きだよ』
一つ触れるだけの口付けが落とされる。
「ん…いえや…」
『愛してる』
今度は甘噛みされるような口付け。
…ちゅ…
『愛は?』
瞼や、頬、口の端と、口付けの雨を降らせながら訊く。
「家康…大好き…んんっ…」
言い終わらないうちに唇を割って深い口付けに吐息ごと奪われる。
『文よりも…ちゃんと伝えたいから…もっと声聞かせて』
「あっ…やっ…」
(文は甘くなくても、こうやっていつも家康は甘やかしてくれる…)
衣摺れの音と共に熱を分かち合っていった。