第13章 忍びの庭 終章
「ん…」
さっきまでの照れ臭さとは違う、熱を持った佐助の目が揺れていた。
『愛…』
佐助の掠れた声が響くと、頬に添えられていた掌は、そのままうなじへと滑り込み、
角度を変えて深い深いキスを、何度となく重ねる。
幼い頃からの淡い恋心からは想像できないえげつない感情と共に
今までの月日を埋める濃厚なキスは呼吸さえも全て奪っていく。
「はぁっ…んっ…さすけ…く…んんっ…」
名前を呼ぶ事さえ許されない佐助の熱にどんどん身体が溶かされていった。
どのくらいの時間そうしていただろう。
気づけば、押し倒された畳の上で、髪も着物も乱れさせていた。
漸くはしたない水音をたてて唇が離れると、
ギリギリ留めている陽の光に照らされてどちらともわからない金糸が伸びる。
『愛…君は凄く可愛い。
今も昔も、全然かわらないな』
「もう…佐助君…恥ずかしいよ…」
困った様に眉尻を下げ、呼吸を整えていく。
『あぁ…。気持ちを曝け出したら、こんなにも止まらないものだとは思わなかった…。
こんなんじゃ止められないけど…タイムリミットだな…』
そう言うと、佐助は愛を抱き起こし、優しく髪を撫でて、その乱れを直す。
『こんなに淫らな顔、他の誰かに見せるなんてやっぱりあり得ないな…』
今度は少し厳しい顔で、はだけた着物の合わせを直した。
「ありがとう」
まだ高揚した顔のまま礼を言う愛に、もう一度触れるだけのキスをする。
佐助が離れた瞬間、
『愛、用意ができたぞ』
と、秀吉の声が襖の外から響いた。
タイムリミットの意味を把握した愛は、できるだけ平静を装い
「わかりました。すぐ行きます」
と答え、遠ざかる足音に胸を撫で下ろす。
「緊張した…」
そう呟く愛に、
『時間足りなかったな。でも安心して。
俺は忍びだから、ちゃんと後でこの部屋に忍び込んで続きをしてあげる』
いたずらっ子の様な笑みを携えて佐助が笑うと、
「もう、佐助君のばか!置いてくからね!」
と、勢い良く立ち上がり、耳まで真っ赤にして頬を膨らませる。
『ごめん。つい君の困り顔が見たくなった。でも忍び込むのは本気だから覚悟して置いて』
(ばか…)
ーこの手は一生離しちゃいけない…ダメ、絶対ー
忍びの庭 終