第13章 忍びの庭 終章
「佐助君!!ごめんね、待たせちゃった?」
身軽な着物に着替えた愛が、息を切らせて小走りにやってくる。
その姿を見て、佐助はフッと息を漏らして微笑むと、
『大丈夫。俺も今来たとこだよ』
と、穏やかな声で答えた。
「そっか、なら良かった…」
そう呟くと、愛は中庭から見える部屋の障子が全てしまっている事を確認すると、
佐助にギュッと抱きついた。
『…っ!』
突然の事に驚いて固まる佐助を尻目に、愛は回した腕に更に力を込める。
「良かった…本当に…。
もし、佐助君が居なくなることがあったらって…私…わたし…」
愛の顔が埋められた佐助の胸が、じわじわと温かみを感じる。
声を押し殺して泣いているだろう愛を見下ろしながら、
行き場のなかった腕を、佐助はそっと肩に回し自分に引き寄せる。
『愛さん…。心配かけてごめん』
そう言いながら、小さくしゃくりあげている愛の髪を優しく宥めるように何回も撫でた。
『それと…勝手に君の気持ちを決めつけてて、悪かった。許してほしい』
その言葉を聞くと、愛は埋めていた顔を上げ、佐助を見上げた。
「ホントだよ…。私を1人ぽっちにしようとして…酷いよ…」
泣き腫らしている顔のまま、頬を膨らませて口を尖らせてみせる。
佐助は、参ったとばかりに眉尻を下げ、もう一度謝った。
『ははっ。久しぶりに君のそういう顔を見るな。
もう、一人で帰らせたりしないから。どうしたら許してくれる?』
愛は、少し考えたあと、
「そう言えば、聞きたいことがあるんだ。お茶…飲む?」
二人は、城内の愛の部屋に移動する。
『ここで君のお茶を飲むのは久しぶりだな』
佐助がつい三ヶ月前の事を懐かしそうに思い返した。
「そうだね。あの頃は、本当に訳がわからなくて、
早く帰りたい一心だった。こんなに大切な家族がここでできるなんて思わなかったから」
淹れたお茶を佐助に差し出しながら、愛が小さく微笑む。
『それで?愛さんが俺に聞きたいことって何?』
一口お茶を啜った佐助が訊く。
「……それ」
『え?』
「その……佐助君が私のこと〈愛さん〉て呼ばなきゃならなくなった理由」