第13章 忍びの庭 終章
「愛、ご苦労だった。今回は殆ど貴様の手柄だな」
信長が愛に声をかける。
「え?そんな、私は何も…三成くんの策が響いたって事ですよね」
そう言って、三成へと話題を振る。
『そんな事ないんじゃないの?だって、この時間あんたしか殆ど喋ってないし』
『そうだぞ、愛。お前、結構才能あるかもな、交渉術の』
家康と政宗がそれぞれ声をかける。
『ほら、今日は疲れただろ?宴も最後はまかせちまったしな。
少し遅いが夕餉にするか。殆ど食べてないだろ、みんな』
秀吉がそう言うと、政宗の目が光る。
『よし、宴は終わったが、上杉との講和記念に、俺たちの宴を開くか!』
そう言いながら信長を見れば、
「好きにしろ。天守にいる。用意が整ったら呼べ」
と、信長は先に謁見の広間を後にする。
先程までの緊張感も解かれ、いつもの織田軍の面々に戻る。
佐助の命もちゃんと謙信が助けてくれた。
自分も、これからこの人たちに恩返しをしながら、
好きな事を仕事にして行くのだ。
それでも、佐助とはまた離れて暮らすことになるという現実が、
少しだけ胸を痛ませる。
(助かったんだし、戦もしなくて済むんだし…上出来…だよね。
きっと今までより直ぐ会える。)
今日は安土城に泊まって行く謙信、幸村、佐助の三人は広間で女中の案内を待っている。
佐助に刀を向けようとしている謙信を幸村が必死に抑えている。
(佐助君が言ってた日常は、なんだかスリルに満ち溢れてそうだね…)
「でも、良かった…」
小さく呟いた愛の顔は知らず知らずのうちに、少しだけ曇ってしまう。
三成は、そんな愛の横顔を複雑そうに見ていた。
『そんなに気になるなら、声かければ?』
急に家康に声をかけられ、三成は飛び上がるほど驚いた。
『わっ!え?家康様、どうされました?』
家康はやれやれと言うように溜息をつく。
『そんな人を化け物みたいに驚かないでくれる?
愛のこと、気になるんでしょ。
全く、なんで上手くいったのにあんな顔してんだか』
『愛様にとって、何が一番良かったのでしょうか…。
安土にいる事は、愛様にとって幸せなことでは無いのでしょうか…』