第13章 忍びの庭 終章
「いいえ」
その声は、震えてはいるものの、しっかりと謙信を見据えている。
「私は、先程佐助君が説明した通りですから、
佐助君が側に居ない世界に、一人で帰る意味がありません」
愛はそこまで言うと、再び深呼吸をして姿勢を正す。
「それに…、佐助君が謙信様を想うように、
私も信長様と織田軍の皆が大切なんです。
今、私だけが帰ったら、きっと後悔しますから。
まだ私は、私に良くしてくださった安土の方々に、
何の恩返しもできてません。私にできることは、
佐助君が謙信様に出来ることよりよっぽど小さいでしょうけど…」
何故か込み上げて来る涙を一生懸命堪えながら、謙信を見つめる。
「でも、謙信様。もう一生、故郷を捨てると言うことは、
簡単に出来ることではありません。私なんかと違って
佐助君はとても優秀な大学院生です。帰ったら、沢山の人から求められる人材なんです。
私たちの世界でも、タイムスリップを本当に計算できる人は今まで居なかった。
そのくらい優秀な頭脳の持ち主なんです」
少しだけ小さく息を吐く。
「その佐助君が、帰る場所のある佐助君が選んだのは謙信様だった。
悔しいけど、私でもなかったんですよ?」
『愛さん、それは…』
「佐助君は黙ってて。
だから…謙信様。そんな優秀な佐助君をみすみす見捨てて仕舞うのは、
謙信様のこれからの人生に大きく損害をもたらすと思います!
佐助君が私を好きだと言うのなら、私が信長様に頼み込んで、
私の家臣として織田軍で働いてもらうことだって出来るんですよ?
それでも、謙信様は佐助君よりも、戦を選ばれるんですか?」
後半は、あまりの剣幕でまくし立てる愛に、
秀吉と家康は目を見開いて驚いてる。
信長と政宗、そして光秀もまた、面白い物を見たというような、
楽しげな表情を浮かべていた。
その中で、三成はただ一人、何かを思い悩むような顔をしていた。
『やっぱり、イノシシ女は何言い出すかわかんねぇな…。
どうします?謙信様。佐助の命ごと織田軍に取られる事になりそうですよ』
幸村が、深いため息と共に謙信に問いかけた。