第13章 忍びの庭 終章
佐助は淡々とした表情のまま謙信を見た。
少なくとも周囲にはそう見えただろう。
しかし、愛だけは、
(あ、佐助君凄い驚いてる!)
と、思っていた。
実際、佐助は予期しなかった謙信のことばに、驚いていたのだ。
なぜ、今の話でそうなるのか、寧ろ色恋の話は一切していない状況で。
すると、
『何を驚いているんだ、佐助』
と、謙信の訝しげな声が響く。
その声に愛は、(謙信様にもわかるんだ)と感心し、
愛と謙信以外の全員が、(驚いてる?)と内心驚いていた。
そのくらい佐助の表情を見極めるのは難しいのだ。
『いえ。俺はこの時代に来るずっと前から、
愛さんの事は好きですから。ずっと片想いですが』
妙に無表情な佐助からは想像もできない言葉が次々と紡がれる事に、
最早、周囲は驚きを胸の内に秘められなくなっていた。
『お、お前…よくもそんな飄々と小っ恥ずかしいこと言えるな…』
一番我慢できなかった幸村が思わず声を出す。
『まぁ、幸よりは経験値積んでるような気がするから』
そして、大勢の前で堂々と言い切る佐助に、
前に一度聞いている事とはいえ、恥ずかしさを隠せないでいる愛は、
ずっと俯いたまま、居た堪れない。
そこへ追い討ちをかけるように、謙信が佐助に訊問を続ける。
『お前があの女を好いているというならば、何故側において置かぬのだ。
惚れた女子を愛でて、守り抜くのがこの乱世を生きる男としての役目であろうが』
後ろでは幸村が、普段は女嫌いで通っている謙信からの意外な言葉に、
目を丸くし、顔は耳まで真っ赤に染めている。
冷たい眼差しで見据えられて、当たり前のように言う主君の言葉に、
佐助は、自分が居なければ意味がないと言った愛の言葉を思い出していた。
そして、同じ謙信の言葉を聞き、三成は密かに
愛に行かないで欲しいと伝えた事は間違いでなかったと改めて想う。
それぞれの胸の中で様々な思惑が渦巻く中、謙信は佐助に更に言葉を求めた。
『それで、そのわーむほーるとやらが戦の前と言うことは、
今時ではないのか?お前が捕まったせいで、あの女もここにいるのか』
その言葉に、今度は愛が顔を上げる番だった。