第2章 特別な人(秀吉)
急に現れて、何も知らずに三成を叱った秀吉に腹が立った。
メモ紙一枚で三成に自分の代わりをさせようとしたことに腹が立った。
自分の余裕のなさに、一番腹が立った。
愛は、秀吉と三成が名前を叫ぶのも振り切って、
駆け出していた。
兎に角、1人になりたくて、ただ闇雲に走った。
どこをどう走ってきたかはわからない。
途中、秀吉が追いついてきたが、
「1人にして!」と叫んだ。
城下を抜けて、いつのまにか城のすぐ下まで辿り着いていた。
辺りを見渡して、誰も見ていないのを確認すると、
門をくぐり、素早く城内の部屋に篭った。
(三成くんに悪い事しちゃった…)
「あとで三成くんには謝らないと…
折角私を連れて出てくれたのに…」
膝を抱えて呟く。
部屋に入り落ち着けば、また涙が止めどなく溢れた。
(秀吉さんにとって、私って何なんだろう…)
気づけば、外は陽は傾き、もうすぐ夜を連れてきそうな気配だ。
(私、寝ちゃったんだ…)
畳に横になっていた身体には、羽織がかけられ、
身を起こすと、部屋の入り口には
今日買ってもらった反物の包みが置いてあった。
(三成君かな…)
泣いて寝てしまったので、頭がガンガンと痛かった。
鏡を見ると、見るも無残な顔がそこにある。
夕餉の声かけをしに来た女中に、
気分が優れないから要らないと返事をする。
そのまま、簡単なものに着替え、褥に潜り込んだ。
頭が割れそうに痛い。
誰にも逢いたくないというのが本音だった。
しかし、夕餉に顔を出さない愛を、
皆が心配する。
気分が優れないと伝えてしまったので、
家康が体調を聞きに来た。
襖の外で、どんな具合なのかと問われた。
いつもなら、無理やりにでも入ってくるところを、
「頭が痛いだけ。寝れば治るから…」
と伝えると、
『薬置いておくから、酷かったら飲んで。』
とだけ聞こえ、足音が遠ざかっていった。