第2章 特別な人(秀吉)
『秀吉様は…』
「え?秀吉さん?」
『秀吉様は、愛様と一緒にいて、心臓が持つのでしょうか…』
「へ?」
三成の突然の発言に、意味がわからない愛。
『手を繋いだり、微笑まれたり、餡子を…。
私は何故かわかりませんが、その度に、心臓が強く波打ち、
このまま破裂するのではないかと何回も思いましたもので…』
「そ、そんな大袈裟な!」
『いえ、本当です。普段生活していて、こんなに胸が苦しくなることはありません。
戦場で、敵を目の当たりにしてもこんな風には…。ですが、今日は1日に何回も
胸が破裂しそうな程です。これは何なんでしょう…。
秀吉様は、毎回こんな想いなのでしょうか…』
(三成くん、サラッと恥ずかしいこと言ってるんですけど!!)
ふぅ…と1つ息をついて、少し悲しそうな顔をする愛。
「秀吉さんは…そんな事ないと思うよ。
いつでも余裕で、おとなで、城下に出ればみんなに取り囲まれて…
その度に、私の方が胸がギュっとなるよ…」
言葉にしたとたん、喉の奥にギュッと熱いものが込み上げてきてしまい、
それ以上声にならなくなる。
「愛様?」
俯いた顔を三成に覗き込まれ、
「なんでもない…」
と絞り出すのが精一杯だった。
涙を堪えるために、息を止めていると、
『おい、三成!』
肩で息をしなが、1日出掛けると聞いていた秀吉が息を切らし走ってくる。
『秀吉様!お仕事は終わられたのですか?』
三成が振り返りざまに訊く。
『どうにか早く終わらせて、お前たちを追いかけたが、
反物屋を最後に他には顔を出してないって言うじゃないか。
お前、俺の言う通りの買い物を…
愛どうした!三成何したんだ!』
俯いて肩を震わせている愛を見つけて三成を叱ろうとしたその時、
「秀吉さん!三成くんは何も悪くない!」
『愛様…』
「私が我が儘言って、ここに連れてきてもらったの!
秀吉さんこそ、その紙一枚で三成くんに押し付けて、何考えてるの?
三成くんは秀吉さんの代わりじゃない!秀吉さんは、私を何だと思ってるの?!」
泣きながら声を荒げる愛。
『おい、どうしたんだ、落ち着…』
秀吉が言い終わらないうちに、愛は駆け出していた。