第13章 忍びの庭 終章
『失礼します。皆様をお連れしました』
三成が襖の外から声をかけると、
「入れ」
と、信長の声が響く。
開かれた襖の先には、下段の間に刀を脇に置き、真正面から信長に対峙する謙信と、
少し下がって同じ様に刀を置いた幸村の姿が見える。
「愛も来たな。こちらへ来い」
そう言うと、信長は一番高くなっている上段の間に招く。
中段の間には秀吉、三成、家康、政宗が謙信たちを見据える形になった。
秀吉の隣のひと席空いているのは光秀の分だろう。
「あとは光秀だけだな。
ん?愛。何をそんなに離れておる。もっと近くに来い」
妙に間を開けて座る愛に、信長が声をかける。
「えっと…はい…でも…」
(秀吉さん達より私が高い席に座るのは…)
そんな愛の迷いを見透かす様に、振り向いた秀吉が
『愛、今回はお前が大きく関わっている。
俺たちを気にせず、早く信長様の言う通りにしろ』
言葉は厳しいが、その目は優しい。
「はい、わかりました」
秀吉の言葉のおかげで、漸く信長の近くに寄る。
その一部始終を、射るような目で冷たく見ている謙信の視線が居心地悪い。
幸村に目をやれば、謙信と対照的に熱い光を携えて織田軍を見据えていた。
ふと、愛と目線が絡むと、少しだけ眼差しを緩めたように見える。
きっと、幸村はある程度知っているのでは無いかと思う。
佐助に尾行されてる時も、幸村が一緒にいたと教えてくれた。
一瞬の幸村の目線で、何故か愛は悪いようにはならない気がした。
(でも、油断しちゃダメ)
愛は大きく深呼吸をして姿勢を正した。
『失礼します。佐助を連れて参りました』
襖の外から光秀の声がすると、広間は更に空気が張り詰める。
「光秀か。入れ」
信長の通る声が響いた。
光秀は、廊下で共に連れていた家臣に下がるように命令し、
縄で括られたままの佐助を中に入れた。
襖を閉め信長を見ると、黙って頷く姿が見える。
それを確認し、光秀は佐助をの縄を全て解いた。
『えっ?』「えっ?」
佐助と愛は同時に驚いて声を出すが、誰も気にしていないようだ。
佐助を下段の間の際に、謙信の前に向かい合わせになる様に座らせると
光秀も秀吉の隣に腰を下ろした。