第13章 忍びの庭 終章
信長が去った広間では、なし崩しに宴はお開きとなっていた。
片付けがされる中、最後まで広間で接待を続けていた愛と政宗、家康は、
信長から呼び出されるのを、既に片付けられた場所で待機していた。
『愛様、先にお着替えされますか?』
愛付きの女中が声をかけてくる。
愛は、少しだけ迷ったが、
「まだ…大丈夫です」
そう言って断った。
『あんたも当事者だしね。まぁ気になるだろうし』
家康がお茶をすすりながら言えば、
『まぁ、そろそろじゃねぇか?お前抜きで話が進むとは思えないしな』
残った料理の重をつまみながら政宗が言う。
『それに、佐助だって連れてこなきゃだろうから、
客人の前を堂々ってわけにいかなかったんじゃないの?』
確かに、地下牢から出てくる敵方の忍びが堂々と宴の参列者の前を通す事はできないだろう。
愛は、家康の言葉に納得しながらも、普段よりも時が過ぎるのが長く感じていた。
ついつい、俯いて下唇を噛み締めてしまうくらい緊張してしまう。
『ちょっと。もっと力抜けば?』
家康が優しい手つきで愛の口元に触れる。
「えっ?!」
急に伸びてきた手に驚くと、
『そんなに力入れたら、血が出るよ』
家康に言われて初めて唇を噛み締めている事に気付いた。
『家康も、ちゃんと好きな女には優しくできるんだな…くくくっ』
面白そうに笑う政宗に、
『なっ!違いますよ。そんなんじゃありません。
折角見立てた着物、一日で汚されても気分悪いと思っただけですよ…』
そう言うと、あからさまに頬を赧らめて目をそらす。
愛は、突然の政宗の言葉に余り思考が追いついていなかった。
そんなやりとりをしている三人の前に、三成が現れる。
「皆様、信長様が謁見の間でお呼びです。愛様もお願いしますね」
そう言うと微笑み、自然な流れで愛に手を差し伸べた。
「うん。ありがとう…」
その行動に家康と政宗はなんとなく目を合わせ、家康は直ぐに目を逸らした。
政宗は再び、小さく笑い声を漏らす。
しかし、自然に三成の手を取った愛だったが、頭の中はこれからどの様な展開になるのか、
それだけでいっぱいいっぱいだった。