第13章 忍びの庭 終章
『謙信様、本当にご自分で行かれるのですか?』
春日山城では、信長からの書状を受け取った謙信が、
突飛な行動に出ようとしたため、騒然となっている。
『書状で返せばいいんじゃないですか?自ら敵地に乗り込むなんて!』
広間では、幸村が必死に説得しているところだった。
「幸、謙信は言ったら聞かない。
それに…佐助のことが心配なんだろう?
一切口には出さないがな」
信玄は、頑として家臣の言うことを聞こうとしない謙信を見ながら、
ニヤリと笑みを零した。
『それにしたって…』
幸村はどうにも納得できなかった。
「どうせ、協定を結ぶには双方が会わなければならなくなる。
手間が省けるだろう。
信玄、お前には本当に悪いと思っている」
佐助を救うために、織田の条件をのむという苦渋の決断を謙信はした。
しかしそれは、同盟を組んでいる武田にとっては、本来ならばありえない事だ。
『そりゃあ、打倒織田を掲げて来た俺たちは、到底協定などは結べない。
だけどな、謙信。お前がどれだけ佐助の事を大切に思っているかは、
ちゃんとわかってる。なぁ、幸村。俺がお前の立場で幸を取られて居たら、
全く同じ決断をしたよ。だから気にするな』
『だったら…。
信玄様、俺も謙信様と一緒に行かせてくれないか?
やっぱり単身乗り込むのは賛成できねぇ。
それに、安土の事なら、佐助のいない今は俺の方が詳しい』
信玄は、幸村の申し出を、予めわかっていたかのように、
『そうだなぁ。悪いが謙信、うちの幸も連れて行ってくれないか。
このままだと、ずっとこの調子でいい続けそうだ』
と、謙信を見る。
「勝手にしろ…」
誰にも目を合わせずに、呟くように謙信は言った。