第13章 忍びの庭 終章
ある朝、愛は早くに目が覚めて1人で庭を散歩していた。
三日三晩続いた安土の宴も漸く今日で終わる。
昨日の夜の話では今日あたりに上杉からの返事が来るのではと聞かされていた。
(光秀さん、地下牢にいるのかな…)
宴の最中は、全く身動きが取れず佐助に会いに行く事もままならなかった。
織田軍の皆が、自分を姫としてお披露目をしたこともあり、たくさんの来客者から盃を受け、
この数日は部屋に戻ると直ぐに睡魔に襲われていたのだ。
昨晩は少し早くに切り上げてもらえたこともあり、
こうして早起きしてしまった。
(ダメ元で地下牢行ってみようかな…)
まだ朝餉までは少し時間もあるから…と、自分の中に理由づけし、
愛は地下牢へと向かった。
「おはようございます。光秀さんはこちらにいらっしゃいますか?」
『愛様、おはようございます。明智様は中にいらっしゃいますよ』
門番は愛に笑顔で挨拶をすると、中に案内する。
『明智様、愛様がいらっしゃいました』
光秀はその声に、少し驚いたような顔をするが、すぐにいつもの笑みを携え、
『ほぅ。また性懲りも無くここへ来たのか。
俺も随分好かれたものだな』
と、小さく笑った。
「ち、違いますよ!その…」
戸惑う愛を面白そうに見ると、
『佐助に会いに来たのだろう?全く、お前は本当に揶揄い甲斐があるな』
そう言い、奥の牢に続く鍵を開けた。
「ありがとうございます…」
『今朝は余り長居するなよ』
そう声をかけると、元いた場所へと戻って行く。
愛は、奥へと進み佐助の牢の前に辿り着いた。
「佐助君…おはよう」
『愛さんか、おはようということは、朝なんだな』
暗い地下牢では陽の光も入らないため、ずっとここに居たら
昼夜の感覚はなくなってしまうだろう。
「うん。中々来られなくてごめんね。
てゆうか、秀吉さんたちに止められてるから、
光秀さんに頼んでこっそり来てるんだけど…」
その言葉に、佐助は口元を綻ばせて
『ありがとう。嬉しいよ』
と伝えた。