第13章 忍びの庭 終章
漸く家康の手が離れると、愛はもう一度文句を言う。
「急に酷いよー」
『あんたが、ふにゃふにゃしてるのが悪い』
家康は悪びれずに言う。
「なんか…此処に居てもいいのかな?って思えただけだよ。
佐助君が捕まってるのに不謹慎だけど…。
いつも何となく、居場所を探してたから。
でも、今日はみんなの晴れ着姿も見られたし、良かった」
『信長様に感謝しないとな、愛。
でも、今も昔も、お前の居場所は安土だ。そう思えばいい。
だから、お前がもし敵に攫われたら、それは大事だ。
三成だけじゃなく、全員頭を盛大に回転させて、お前を助け出すよ』
「秀吉さん…」
『今までは、きっと私が空回っていたせいで、
愛様を不安にさせてしまったのでしょう。
あなたは、織田軍の、安土城のなくてはならない人ですから。
忘れないで下さい』
三成もエンジェルスマイルを向ける。
『そう言うことなんじゃないの?
上杉にとっての佐助も、織田にとってのあんたも、
全力で助け出すに匹敵するんじゃない?』
愛は鼻の奥がツンとするのを感じ、
慌てて目線を月に移す。もう涙が溢れないように。
『うちの参謀の練った策だ。返事が来るまでは、もっと力抜いて待ってれば。
あんたがやきもきしたって、何かが変わるわけじゃない。
だったら、そのふにゃふにゃな顔でずっと笑ってればいいよ』
そう言うと、家康は腰をあげる。
『じゃ、俺は明日も早いんでもう寝ますよ』
家康の言葉に、秀吉も続き、
『あんまり長居すると風邪ひくぞ?程々にしろよ』
と、言って去って行った。
『愛様も、お部屋に戻られますか?』
三成が訊くと、愛は小さく首をふり、
「もう少しだけ此処にいる」
と言った。
『では、私も少しだけ一緒にいさせて下さい』
三成の言葉に、愛は微笑みながら頷く。
暫く二人は黙って月を見上げていたが、不意に三成が口を開いた。
『愛様は…佐助殿の事が…その、、好き、なのですか?』
急にされた質問に一瞬戸惑う。
「わからない。恋なのか家族愛なのか…。
でも、確信できるのは、私にはとっても大切な人ってこと。
だから、居なくなって欲しくないよ…」
『そうですか』
一言答える三成の顔は、どこかホッとしたように見えた。