第13章 忍びの庭 終章
「書状…届いたら、どうなるかな…」
不意に愛が呟く。
『佐助が気になるか?』
秀吉が心配そうに愛を覗き込む。
「そりゃあ気になるよ…。でも、それだけじゃないから」
『何?まだなんか隠し事でもある?』
家康も愛を見る。
「隠し事なんか、もう何にもない。
佐助君も心配だけど…私は織田軍のみんなにも、
今日来てくれた大名のひとたちや、町の人達にも、戦はして欲しくないから…」
『甘い』
家康がぶっきらぼうに言うと、愛は少し頬を膨らます。
「わかってるよ。頭ではね。
だって、もし反対に、私が上杉に捕らえられたとして、
信長様や、織田軍が私の命を助けるために、
戦を中止しようって考えるとは思わないもん」
『おい…』
秀吉が驚いて声を出す。
「でもね、希望は捨ててないよ。
だって、私と佐助君じゃ、決定的に立場が違う。
佐助君は謙信様の右腕なんでしょ?もしかしたら、謙信様も、
佐助君が居なくなるのは惜しいって…自分にとって不利益だって思ってくれると思うから」
『あんたがもし連れ去られたら、大騒ぎなんじゃない?
むしろ、向こうに戦の構えがなくても、織田軍から仕掛けるかもしれない。
だろ?三成』
急にその名前を出した家康に、愛も驚いたが、
それ以上に名前を呼ばれた本人が驚いた。
『家康様!お気づきになられてたのですね』
そう言いながら、影から三成が顔を出した。
『三成も座れ。夜風が気持ち良いぞ』
秀吉が、自分と愛との間に三成を促す。
三成は、
『ありがとうございます』
と、素直に腰を下ろした。
『別に…呼んだわけじゃないのに』
家康が小さな声で文句を一つ言う。
『まぁ、そう言うな。仲良くしろ』
秀吉がいつものように嗜める。
いつものやりとりが、今日は心地いい。
そんな風に愛は思っていた。
いつもどこか、蚊帳の外で見て居た風景が、
今は自分も一緒に並んでいるのだと初めて思えた気がした。
(佐助君には、申し訳ないけど…きっと私も此処が居心地いいと感じてたんだな…)
『何、ニヤニヤしてるの?』
家康が愛の頬っぺたを軽くつまんで言う。
「いひゃい!もう…はなひてよー」