第13章 忍びの庭 終章
宴の初日、終わりが見えたのは夜も大分更けてからのことだった。
愛は、飲みすぎて火照った身体を冷ましに、一人中庭の見える縁側に座っていた。
「ふぅ…少し飲みすぎちゃったな…」
フワフワした意識の中、綺麗に浮かんだ月を眺めていた。
『お疲れ、愛。大丈夫か?』
振り返ると、秀吉がお水の入った湯呑みを渡しながら声をかけた。
「秀吉さん。ありがとう。流石に少し飲みすぎちゃった。秀吉さんも結構飲んだでしょ?」
ふにゃっと笑うその顔は、酒のせいか、月明かりのせいか、
秀吉には、いつもよりも少し艶っぽく見えた。
(無防備にも程があるな…。今日は特に…)
『あぁ、そうだな…』
秀吉はそれだけ言うと、ゆっくり愛の隣に腰を下ろした。
水を一口飲んだ愛は、秀吉に少し持たれるように肩を寄せた。
『どうした?そんなに酔ったか?』
「秀吉さんは、やっぱり安心感があるよね。
今日も、ちょこちょこいた女の子達にモテモテだったし。
わかる気がするな〜」
目線は月を眺めたまま、愛がクスッと笑う。
『別にモテてないだろ?そんな事言ったら、お前の方が凄かっただろう。
あの中で本気で狙ってるやつが何人いると思ってるんだ?』
未だ自分の肩にもたれて、
ふにゃっとした顔で月を眺めている愛を見下ろし、
秀吉は小さな溜息をついた。
「私?あれは、誕生日だからでしょ?
モテた覚えは一度もないよ?」
『あ、こんなとこにいた。何で二人でいちゃついてんですか?』
後ろから新たに声がして二人が振り返る。
そこには、盛大に溜息をついている家康の姿があった。
「家康!お疲れ様。いちゃついてないよ。話ししてただけだよ」
『そんなにくっついて?』
言いながら、秀吉と反対側に腰を下ろすと、濡れた手ぬぐいを渡した。
『はい。結構飲んだでしょ。首元に当てておきなよ』
「うん。ありがとう。家康優しいね」
そう言ってニコッと笑うと、家康は気まづそうに目を逸らした。
『別に。寝てから具合悪いって言われてもめんどくさいだけだから』
(全く…本当は勝手に居なくなろうとしてたくせに…。
こんなにふにゃふにゃ笑ってるし…)
『で、何の話ししてたんですか』
『大した話はしてない。殆ど月を見てたようなもんだ』
秀吉が答えた。