第13章 忍びの庭 終章
『家康様のお見立ても、とても素晴らしかったですよ』
みよしのの主人が、笑顔で返す。
『織田の皆様は、愛様の趣味を本当にわかってらっしゃる』
「家康はどんなの選んでくれてたの?」
家康への質問を、横から三成が答える。
『家康様のお見立ては、綺麗な金糸織の刺繍がされている、橙色の着物でしたね』
「そうなんだ、家康らしいね。今度みよしのさんに、見に行ってみるね」
すると、やり取りを見ていたみよしのの主人は、
『いいえ、もう店にはございません』
と、意味深に笑ってみせる。
「そうなんですね、残念。見てみたかったな」
愛は残念そうに笑って言った。
『あ、政宗さん…』
ふと家康が呟く。
そこには、晴れ着に着替えて、料理の皿を一つ抱えた政宗が襖を開けたところだった。
『愛、誕生日おめでとう!これは俺からの祝いの品だ』
そう言うと、愛の前まで進んだ。
ドンっと置かれた皿の中には、色取り取りの甘味が花畑のように敷き詰められている。
「わぁ!凄い!!これ、政宗が作ったの?!」
『ははっ。相変わらず良い顔で笑うな。そうだ。全部お前のだ。
たくさん食べろ』
政宗の大きな声に、広間の列席者たちは、口々に
『愛様、おめでとうございます!』
という声を飛ばした。
それを皮切りに、宴は一気に姫君の誕生日祝いへと様相を変え、
愛の前には祝いの酒を注ぐために、信長同様の列ができ始めた。