第13章 忍びの庭 終章
愛は地下牢につくと、番をしている兵に、光秀に会いに来たと告げる。
政宗が、その方が入りやすいと教えてくれた。
その言葉通り、門番の兵はあっさりと光秀の元へ案内し、
また入り口へと帰っていった。
『こんな似つかわしくないところへ来るとは、
やはり、よっぽどのもの好きだったか、お前は』
少しも驚いた顔をせず、むしろ来るのがわかっていたかのように
ニヤニヤと笑みを浮かべた光秀が出迎えた。
「あの、光秀さん。佐助君と少しだけお話できないでしょう」
『させない』
「え…」
一瞬にして愛の顔が曇る。
『と、いったら愛、お前は宴の間中もその辛気臭い顔でいるのだろうな』
クク…っと一人で面白そうに笑う光秀。
「もう!からかわないでください!
お願いです。少しだけでいいんです」
未だ肩を震わせながら、
『別に少しじゃなくてもいい。俺の監視の元だ。
気がすむまで話せばいいだろう。今までだってお前は、
結局自分の信念通りに押し通して来たのだからな』
なんだかんだと悪態をつきながらも、
最後にはいつも、ふとした優しい表情を見せる。
だからこそ、愛には光秀が本当に嫌われるようには見えず、
優しい人間なのだと思っているのだ。
「ありがとうございます光秀さん」
ほっとしたように、愛が礼を述べた。
光秀は少し先に単独で隔離されている、大きめの牢の前に来ると、
『ここだ。なんなら、中に一緒に入るか?鍵を閉めてやるぞ?』
と、笑って見せる。
「もう…。ありがとうございます。此処からで十分ですよ」
そういうと、突然現れた愛の姿に驚いている佐助の牢に近づいた。
『愛…さん。どうしてここに』
「ちゃんと話しておきたいから。
佐助君には聞きたいことも言いたいことも沢山あるの」
少し怒ったような口調の愛に、
佐助は一瞬で理解し、観念したように息を吐いた。
『うん。此の期に及んで、君に隠し立てすることもなにもない。
こんな雰囲気のない場所で申し訳ないけど』
愛が牢の格子に近寄ると、光秀が敷物を持って近づいて来た。
『愛、これを使え。立ち話もなんだろう。俺はさっきの所にいる。
終わったら声をかけろ』
そう言うと踵を返した。