第12章 忍びの庭 後編
『愛、大丈夫か?』
愛の部屋に着くと、秀吉が心配そうに声をかける。
「うん…」
明らかに、大丈夫に見えない姿に、秀吉はため息をついた。
『はぁ…まったく。お前なぁ…』
優しく頭を撫でながら、眉尻を下げる。
「秀吉さん…」
『なんだ?』
「なんか…みんなあっさり佐助君の話信じたように感じたんだけど…」
秀吉は、愛の緊張をほぐすように、
『三成のおかげだ』
と微笑んだ。
「三成くんの?」
愛はキョトンと首を傾げる。
『あいつが、大筋の予測を立てて、お前のために忍び込んでいる事を
信長様やみんなに説明していた。愛が晴れ着を持ってくる前までの軍議でだ』
愛は驚いたように目を見開いた。
『その軍議の場で、あいつは自分の私情を挟みながら策を立てた事を謝り、
今までの事を詳しく説明した。光秀と密かに動いていたこともな』
愛はそれを聞くと、先ほどの信長の言葉を思い出す。
「だから、信長様は三成君に〈織田軍のための策を考えろ〉っておっしゃったの?」
『そう言うことだ。だから、愛の事を責めないでほしいとも言っていたぞ』
そう言うともう一度頭を撫でる。
「そうなんだ…私…さっき三成くんに酷いこと言っちゃったな…」
三成に対して、味方はいなかったと泣き叫んだ事を思い返す。
『気にするな。よし、今茶淹れてやるからな』
そう言いながら、手際よくお茶の準備をした。
『ほら、飲め。落ち着くから』
暖かいお茶を一口飲むと、この数時間の怒涛のような感情がすっと流れていくような気がした。
「美味しい…秀吉さん、ありがとう」
秀吉は何も言わずにただ微笑んで頷く。
「ねぇ、謙信様は、佐助君の事…」
助けてくれるかな…何と無くその言葉を飲み込んだ。
『心配するな。三成は織田軍の腕のいい参謀だ。
その三成の策を信じてやってくれ』
「そうだよね。きっと大丈夫だよね」