第12章 忍びの庭 後編
広間には信長を筆頭に、光秀、三成、家康、政宗の姿も並ぶ。
その前には縄で拘束された佐助がいた。
愛は、最早一人で立つことすらできず、秀吉に抱えられながら広間に入る。
『信長様、愛を連れて来ました』
秀吉の言葉にも、何の反応も示さずただ言われた通りの場所へ座る。
信長は、秀吉に頷いて見せると、佐助に顔を向ける。
「お前が上杉の忍びか」
空気さえ凍るような、信長の冷たい声が広間に響いた。
『はい。軒猿の猿飛佐助です』
「何故、何度も危険を冒してまで安土に忍び込んでいる。
戦に向けて、何かいい情報でも掴めたのか?」
『いえ…。謙信様には申し訳ないと思っていますが、
私は織田軍の情報を得るために忍び込んでいたわけではないので』
黙って聞いていた政宗が口を挟む。
「お前、そんな事誰が信じられるって言うのか?
口では何とでも言えるだろ。それとも、こっちの情報よりも重要な事があるのか?」
佐助は少し考えるように目を伏せた後、意を決したように信長に顔を向ける。
『私には…戦よりも重要で、成し遂げなければならないミッションがあります』
「みっしょん?何それ」
家康が訝しげな顔を佐助に向ける。
『重要な任務があるんです。もう、三成さんにはバレているみたいですけど』
佐助が三成へと、鋭い視線を向けた。
三成も、佐助を真っ直ぐに見据えるが、何も言わなかった。
「ほぉ。そんなに重要なみっしょんとやらを、聞かせて貰おうか」
ニヤリと笑みを携えて光秀が代わりに声を出した。
『簡単に申し上げれば…。
明日、愛さんを安土から連れ出し、無事故郷に帰す事が私の役目です』
「明日だって?何でよりによって、わざわざ明日なんだ」
愛を支えながら、秀吉が厳しい声で問い詰める。
『それは…』
「それは、私が五百年先の未来から来たからだよ…秀吉さん」
佐助の話を遮るように愛が口を挟んだ。
「お前…何言って…」
秀吉が驚いて愛を見ると、
先ほどまで失っていた光を少し取り戻した目が秀吉を見つめた。
『確かに、お前は俺を本能寺で助けた時にそう言っていたな。
下手な戯言と思ったが、それが本当だと言うのか?』
信長は先程までの冷たい声ではなく、どこか面白がっている表情で愛を見た。