第12章 忍びの庭 後編
『小学生の時のお気に入りの靴の色、好きだったアニメ、好きな給食のメニュー
中学の担任、高校の得意科目…』
「なんだかさっぱりわからない話だな…。
三成、もういかねば、他の奴らが踏み込んでしまうぞ」
(私の知らない愛様を、佐助殿は沢山知っているのですね…)
『えぇ。行きましょう』
無表情のまま三成は同意し、光秀はそれを見て愛の部屋の襖を開けた。
そこに居た愛の目は、驚きを隠せないで揺れている。
「光秀さん!…三成くんも…どうして?佐助君がいるの、知ってたの?!」
「やっぱり、ここには味方なんて居なかった!
三成くんが私情で動くなんてありえないもの!嘘つきっ!」
愛の言葉が、次々と三成の胸に刺さる。
どんな戦さ場で受ける傷よりも、深く抉るような痛みを感じた。
(私の痛みよりも、きっと、今の愛様の方がお辛いはずですね…)
戦では、いかに自分たちの兵が、味方が傷つかないで済むのかを考えて来た。
でも、今目の前の、何より大切な人は、誰よりも傷ついている。
三成は、その策を練ったのは自分だということの重みで押し潰されそうになる。
今更ながらに、嫉妬や私情で動いた自分をこんなにも恨めしいと思うのだ。
何も言えず、ただただ暴れる愛を抑えながら、
せめてこの抑えている手首が、痛まないことを願った。
(私は、私が愛様にできる精一杯のことを考えましょう…)
深々と頭を下げている佐助と、その奥で光を失った目をしている愛を見つめ、
そう誓うのだった。