第12章 忍びの庭 後編
光秀の後を歩く三成の足取りは重かった。
「ここまで来て、捉えるのをやめるのか?全てお前の策だが」
全てを見透かしたように笑う光秀の言葉に
『いいえ。城内に忍び込んだ敵を、みすみす逃す事は致しません』
愛に全てを聞いた今、佐助が敵情視察で忍び込んだわけでは無い事はわかっていた。
しかし、このまま見逃す事は到底できることではない。
(それに…私はこんな時でも、また私情挟んでしまうのですね…)
佐助を捉えれば、愛を未来に返さなくも良くなるのでは…と心のどこかで思ってしまう。
愛の部屋の前に着くと、光秀が手で制し、口元に指を当てて声を出すなと指示をする。
三成も襖の前に立つと、息を潜めて中の様子を伺った。
ボソボソと何かを話す声がしていたかと思うと、
突然愛の大きな声が聞こえてきた。
「佐助君が一緒に居なかったら意味がない!
一人で帰っても、私一人ぽっちなんだか…んんっ」
その声は何かに遮られたようだった。
「口付けか…」
光秀が呟く。
その言葉に、三成は身体の芯を何かに貫かれたような衝撃が走った。
(愛様はやはり…)
三成の様子を見て居た光秀は、
「愛からではない。声を抑えるためだろう」
そう言って三成を落ち着かせる。
(やれやれ…先が思いやられるな)
暫くすると、衣擦れの音がして、再び会話が聞こえて来た。
「他愛のない会話だな…どうする三成」
『もう少し…情報を…』
今からの二人の運命を考えれば、素直に話させてやりたいと、
三成は思っていた。それに…
自分の知らない愛の話を聞いて見たいという衝動も。
『君に告白する権利をかけたゲーム』
(げぇむとは何でしょう…告白とはやはり…)
『君のお兄さんが出した、〈愛カルトクイズ〉に全問正解できたら、
告白する権利が貰えるっていう、俺たちにとっては、人生をかけたゲームだった。
最後の問題まで、俺もヒロトもずっと間違えなかったんだ』
「よくわからない言葉だらけだな…」
光秀が顔を顰める。
(ひろと…というのは…祝言の相手だったのでしょうか…)