第1章 ワームホールはすぐ側に(家康)
ーーシャッーー
『おーい愛、出来たかー?』
そう言いながら、声かけもせずに
襖を開けて入ってきたのは政宗。
「愛ならいませんよ。
てか、政宗さん…
いつもそんな自由に愛の部屋に入ってないですよね?」
きっ…殺気を帯びた目でそう言う家康に
『やっぱりまだ早かったか。
てか、お前帰ってきてたのか家康。
そんな怖い顔するなよー。
俺がこの部屋に来たのは今月二回目だ。
反物持ってきた時と今日。』
(えっ?)
あからさまに驚いた家康を見て
政宗も少し面喰らう。
『なんでそんな驚く事があるんだよ?』
「いや、政宗さんの事だから、
俺がいない間に愛にちょっかい出してるかと思って。」
いつもの表情に戻った家康が目を逸らしながら言う。
『あのなぁ…。
俺だって愛を構いたかったところだが、
ちょっと下らんゴタゴタの後処理があって、
光秀と暫く城を開けてたんだよ。
帰ってきたのはさっきだ。
城にいたら、
ちょっかい出してて良かったのかよ。』
笑いながらそういう政宗に、
「なるほどね。」
(はぁ〜。こういう時に間の悪い。)
『どうした?』
「いや、さっき女中から聞いたんですけど、
愛がここ3日くらい食事をまともに取ってないらしくて。
政宗さんの耳に入ってたら、
ほっとくわけないと思ったんですよ。
愛、政宗さんの料理好きだし…」
(まるで三成だな…)
そう思った政宗だったが、
この名前を出すと途端に
機嫌の悪くなる家康を想像し
声には出さないでおいた。
「今、三成みたいって思ったんでしょう」
(す、するどいっ)
『え?あ、三成?
あぁ、そう言われれば、あいつも集中すると
飯どころか睡眠すら取らないからなぁ…
あはは…
愛はそんなことないだろうよ…』
そう言いながら、家康を見ると、
顎であっちを見ろ…と促している。
その先には、皺1つない褥があった。
『まさか…』
「その、まさかでしょうね…」
『悪い事したな…。
あいつが喜ぶと思って、俺も仕立てを頼んだんだが、
そこまで抱えてると思ってなくて、
日にちまで指定しちまった。』
「今日はうちの御殿で夕餉にする予定ですけど…」
『俺に作らせてくれ。
久しぶりの再会を邪魔はしねぇ』