第12章 忍びの庭 後編
野原に立つ、大きな木の下まで来た二人は、並んで腰を降ろした。
「ね?ここいいでしょ?
風も通るから気持ちよくてつい長居しちゃうんだ」
愛が嬉しそうに言う。
『家康様も、こちらにお迎えに?』
ウリと散歩に来て、佐助が訪れ、つい帰りが遅くなった日に、
心配して(本人は言わないが)迎えに来てくれた家康を思い出す。
「うん。あの時もつい遅くなっちゃったな。
秀吉さんも、家康も、心配してくれたんだよね」
照れ笑いをする愛に、
『私も…心配しておりましたよ。
あの時は、仕事が忙しくお迎えに上がれませんでしたが…』
「え?」
『家康様とお帰りになった愛様を見て、
なぜか凄く居心地が悪くなったのを覚えています。
家康様に他意がなかったとしても…その…多分、嫉妬をしたのだと思います』
三成の突然の言葉に驚いて声が出なかった。
『すみません…驚かせてしまいましたよね…。
でも、その時からなんです。
ただ一緒に食事をするだけでは満たされなくなっていったのは』
そう言うと三成は目元を赧らめながらも、しっかり愛の目を見つめた。
「三成くん…。あのね、政宗が変なこと言うの。
三成くんが、私情で策を練ったりするのを初めて見たって。
でも、三成くんが軍の事以外でって、ありえないでしょ?」
愛の言葉を聞くと、三成はフッと口元を緩ませた。
『政宗さんですか…。さすがですね。あの人は。
ちゃんと表向きは、織田軍のためと言って来たつもりなのですが…。
でも、私は本当はわかりやすい人間なのかもしれません。
こと、貴方のことになると。光秀様にも早い段階で指摘されましたから』
「三成くん…それじゃぁ…」
『最初は、あなたにつきまとう忍びがいる事にに気づきました。
その忍びが上杉の軒猿の一人という事は突き止めました。
でも愛様との関係がわからないのです。
愛様のご様子から、貴方が密偵などの類ではないと思っていましたから』
「いつから…?」
『秀吉様の御殿に移られるよりも、もっと前からです。
貴方が哀しそうな顔や、寂しそうな顔をしていると、
いつもあの忍びがやって来ました。そして、私よりも先に貴方を笑顔にしてしまう…』
「やっぱり…だから私を秀吉さんのとこに移したんだね」