第12章 忍びの庭 後編
(あれ?愛さん出かけるのか…。
漸くこっちには忍び込めたけど…一旦出るのは得策じゃないな。
戻るまで此処にいるか…)
佐助が、警備の厳しい安土城で、漸く愛の部屋までたどり着いた時、
ちょうど愛は三成を追って部屋を出るところだった。
入り組んだ天井裏の罠を避けて通るのは中々骨が折れ、一筋縄ではいかない。
そこで、佐助は愛が戻るまで、部屋の上の天井裏に潜んでいる事にした。
(ワームホールが開くには、開戦の一日前か…。
今日の夜、安土を出たとしても京に着くのもギリギリだけど、
そこから春日山には戻れないな…。
謙信様には申し訳ないが、京の近辺で合流するしかないか)
佐助は、胸元から簡易的な筆を取り出すと、小さな紙に文を書く。
万が一のためにと、安土城の外へ待機させている軒猿の仲間に託そうと考えたのだ。
指ほどの小さな筒に入れ、壁際まで来ると一番近い狭間を見つけ外を見た。
小さな鏡で外に合図を送ると、向こうからも返って来る。
(良かった。案外近場にいてくれた。この真下の植込みまで来てもらおう)
文を渡す旨の信号を送り、周囲に人のいない事を確認した。
正面からも死角になる狭間のため、都合が良い。
真下にある松の木の根元めがけて筒を落とす。
文を入れた筒は音もなく目的の場所に落ちた。
それを確認すると、もう一度鏡を使い合図を送る。
しかし、向こうからの返事はなかった。
(もう向かってるのか…?)
ふと、外に仲間以外の人影を目視して狭間から離れた。
戦でもないのに、中から開けているのがバレれば不自然だろう。
そのまま佐助は音を立てずに愛の部屋の天井裏まで戻った。
「先に表を警戒しておいて正解だったな。
あれは…忍び同士の合図か。返しているのは…あの物陰か。
あまり物音を立てずに捕らえろ」
『はっ』
光秀は二人の家臣と共に、外から愛の部屋に一番近い場所を確認していた。
この緊迫して来ている状況でいくら忍びと言えども単独行動はしないだろうと踏んだのだ。
その予感は見事に的中した。
「ここは人もあまり通らないから良い選択だ。俺に見つからなければ、だが。
ん?なにか落としたようだな」
光秀は、狭間の真下に向かって歩き出す。
狭間から人影が消えたのを確認して小さな筒を拾い上げた。