第12章 忍びの庭 後編
『愛様、お待たせしました』
少し遅れて三成が外に出ると、二人は並んで歩き出す。
「光秀さん、いつも意地悪なんだから…。
でも、ちゃんと話は聞いてくれるんだよね。本当は優しいのに、意地悪」
三成は愛の言葉に複雑そうな顔をする。
『愛様は、本当に良く人を見ていらっしゃるんですね…』
「そ、そうかな?思ったまま言っただけなんだけど…」
『いいえ、一人一人を良く理解していらっしゃいます。
昨日の晴れ着の説明を受けて、心の底からそう思いました。でも…』
「でも?」
愛は三成が急に言葉を切ったので、不思議に思って三成の顔を覗き込む。
『いえ…。その…。
愛様が、自分以外の者を良く理解していることが…
なぜか、苦しく感じてしまうのです』
「え?」
三成から想像を超えた答えが返って来たことに、
愛は驚いて目を丸くする。
『あっ、ええっと、一先ず忘れて下さい。
今日はちゃんと、お伝えしたいのです。だから…』
「わ、わかったよ。ごめんねっ」
(もう、政宗のせいで、無駄に緊張しちゃうよ!ばか!)
三成が、織田の参謀としての立ち位置を忘れ、
私情で策を練るなど、愛には到底考えられなかった。
だからこそ、全てを話すという三成が何を言うのかが気になってしまう。
お互いに、微妙な緊張感を持ってしまった散歩は、
言葉数も少なく、いつもとは勝手が違った。
漸く目的地が視界に入ると、どちらからともなくため息が漏れた。
「わぁ…やっぱり此処はとても綺麗」
咲き誇る花々を見渡しながら、愛が嬉しそうに声をあげた。
『こんなに花が咲いているんですね。
この場所は知っていましたが、こうして足を踏み入れるのは初めてです』
三成は、嬉しそうな愛の顔を見て、自らの顔を綻ばせた。
『愛様に、とてもお似合いの場所ですね』
「似合ってるかどうかはわからないけど、凄く落ち着くんだここ。
あ、あっちの方に木があるの。木陰になってるから、そこに行こう?」
そう言うと、無意識に三成の手を取り、歩き出す。
三成は突然の事に、呆気にとられたまま、愛の後をついていく。
(この手を、握り返せるようになるのでしょうか…)
繋がれた手を見つめたまま…。