第12章 忍びの庭 後編
(三成くんの本気?)
安土城の自室についても、政宗に言われた言葉がずっと引っかかっていた。
この1ヶ月間、思い返せば沢山の事が起こり、
それは、この世で生きるためには仕方のないことだと思っていた。
佐助が忍び込んだことはバレていたはずなのに、
愛には内緒で警備は強化され、
きっと秀吉の御殿に移されたのも、その一環だろうと思っている。
黙って城下に出れば、おおごとになる程捜索された。
それは、どこかでずっと自分が信頼されてないと思っていた。
でも、もしそれが政宗の言うように、
自分を想う気持ちだけで三成が動いてたとするのなら…
(そんな事、ありえないよ。ありえない…よ)
佐助と思うように会う事ができず、辛い多かった今までの間で、
愛が一番思い出すのは、線香花火をした日のこと。
三成がわざわざ仕入れてきたと言う線香花火は、
いつでも愛の寂しさを紛らわせてくれていた。
(あれも…三成くんの気持ち?
わからない。だけど、私には…答えられない。
それが本当だったとしても。だから、本当のことは知らなくていい。
佐助君と、現代に帰らなきゃ…)
庭へと続く襖を開け放ち、ぼーっと外を眺める。
初めてこの部屋に来た時とは、全然違う景色に見える。
今はこの広い空も、愛おしく感じる事が出来る。
愛は立ち上がると、部屋の中の衣桁にかけられた鮮やかな着物に近づく。
着ることのない晴れ着。明日、宴が始める前にはきっともう安土にはいないだろう。
愛は、裁縫道具を抱えて縁側に座ると、
ある物を作りながら、静かに佐助の訪れを待つ事にした。
どのくらい時間は経っただろうか。
陽がもう直ぐ傾くかと言う頃、不意に入り口から声がかかった。
『愛様、いらっしゃいますか?』
「み、三成くん?どうぞ」
集中していた事と、声の主が三成ということもあり、
愛の心臓はどきんと跳ねる。
『お仕事中でしたか?すみません』
襖を開けると、申し訳なさそうな顔をした三成が姿をあらわす。
「ううん。これは仕事じゃないよ。どうしたの?」
『愛様との約束を果たしに来ました。
宜しければ散歩にいかがですか?』
いつものエンジェルスマイルで三成は笑いかけた。