第12章 忍びの庭 後編
愛は、驚いた顔で政宗を見上げる。
「気にいるとか…そんなんじゃないよ。なんで?」
愛の言葉に政宗は訝しげな表情を浮かべ立ち止まる。
『そうじゃなかったら、お前にそんな顔をさせる原因はなんだ』
「え?」
『だから、なんでそんなにこの世の最後みたいな顔してるんだよ。
さっきの女中とも、金輪際会えないような挨拶してたな』
(政宗するどいっ。また顔に出ちゃってるんだ、私…)
『お前はすぐに顔にでるんだ。俺を舐めてもらっちゃ困る。
お前、そんなに三成のことが好きなのか?』
険しい顔のまま言う政宗言葉に、愛は今度こそ驚きを隠せない。
「え?み、三成くん?なんで?秀吉さんじゃなくて?」
政宗の真意がわからない愛は、目を丸くする。
『は?お前…悪い女だな。あれだけ三成本気にさせておいて、
本命は秀吉なのか?まぁ、どっちにしたって俺は気に食わねぇ』
「へ?」
(あれ?なんか話が…よくわからない…けど)
「三成くんの本気って、なに?」
真剣な顔で聞く愛の姿に、政宗は少しだけ驚いた後、
急に大きな声で笑い出した。
『はははは!お前やっぱり面白い女だな。
いや、面白いっていうより、悪女だな。くくっ』
さっきの険しい表情と打って変わり、心の底から愉快そうに笑う政宗に、
愛ムッとした顔をする。
「そんなに笑わなくてもいいでしょ?だいたい、悪女ってなによ!」
頬を膨らませる愛に、
『俺は、三成と出会ってから戦術と読書以外、
人に真剣になったところを見たことがなかったが…
お前を守るためだけに、あれだけの策を練ったって事は、
あいつがいかに愛に本気かって事だろ』
未だ楽しそうに言う。
「それって…え?嘘…いやいやいや、そんな事…て言うか、策って…?」
『お前、それ…本気で言ってるなら、笑えないぞ…
鈍感にも程があるだろうが』
「三成くんが、その…私情で策を練るなんて、あり得ないでしょ…」
政宗は笑うのをやめ、今度は盛大にため息を吐いた。
『だから、本気だって言ってんだろうが』