第12章 忍びの庭 後編
「すみません、すっかり頼ってしまって…」
愛は、女中のしのに申し訳無さそうに話しかける。
『いえ、いいんですよ。これも私の仕事ですし。
でも…淋しくなりますよ、愛様がこの御殿にいなくなるのは』
晴れ着を縫い終わるまで、秀吉の御殿にいる事になっていた愛は、
安土城の自室に戻るため、朝からしのと準備を進めていた。
『いつでも遊びにいらして下さいね?
三成様も、その方がしっかりお食事されますので』
しのの、優しい笑顔を見ながら、愛は胸が締め付けられる。
(ごめんなさい…もう…私…)
愛は、油断をすると流してしまいそうな涙を
グッと堪えたまま、しのに抱きついた。
『愛さま?!』
驚くしのに、体制を変えず、
「本当にありがとうございました。
しのさんの事忘れないから…」
『もう、やめて下さいよ。安土城はすぐ目と鼻の先なんですよ?
今生の別れのような、挨拶は大げさでございます』
そう言うと、優しく愛の背中を撫でる。
「しのさん…私、私…」
愛が何かを言いかけたその時、
『愛、支度できたか?』
声と同時に襖が開き、政宗の姿が現れた。
抱き合ってる二人の姿に唖然としながら、
『何してんだ?』
と、目を丸くする。
突然現れた政宗の姿に、驚いてしのから慌てて離れると、
「ま、政宗!どうしたの?」
と、漸く愛が声を出した。
『秀吉と三成は、お館様と出かけられるから、
お前の引っ越しを手伝ってくれって秀吉に言われたんだよ。
もう荷物纏まってるのか?』
綺麗に片付けられた部屋を見渡し、
入り口にまとめられた少しの荷物に目を落とす。
「うん。しのさんが手伝ってくれたから、すぐだったよ」
『そうか。じゃあ、早速出発するか』
政宗が、荷物に手を伸ばしかけると、
「あ、政宗待って!」
一つの風呂敷包みを解き、中から巾着を取り出すと、しのに手渡した。
「これ、良かったら使って下さい。
本当は着物でも縫えれば良かったのですが、それには時間が無くて…」
昨晩、晴れ着を武将たちに渡したあと、戻って来た愛は、
しのに何かを渡したいと思い、この巾着を仕上げていた。