第12章 忍びの庭 後編
その頃、春日山城でも軍議が開かれていた。
「では、皆の者抜かりなく進めろ。
出立は五日後。それまでに、各自兵武器の確認をしっかりしておけよ」
〈はっ〉
信玄の通る声が広間に響く。
武田の家臣たちは、幸村を筆頭に入念な軍議を進めていた。
その様子を見ていた謙信は、つまらなそうに佐助に話しかける。
『おい佐助、五日も待ってる必要があるのか。
俺は今すぐにでも出られる』
佐助は無表情のまま、謙信を宥める。
「謙信様だけ準備出来てても意味がないでしょう。
戦なんですから、ちゃんと輪を乱さないで下さい」
頭ではわかっていることを言われ、謙信は更に面白くなさそうな顔をする。
『生ぬるいやつばっかりだな…』
そう言うと、酒を煽る。
「ちゃんと今日の夜は、決起のための宴開くって、信玄様が言ってましたよ」
『宴か。まあ暇つぶしにはなる』
「俺は最後の安土偵察に入ります。出立の前日には戻りますから」
『勝手にしろ』
(愛さん…ごめん。一緒には帰れなくなったけど、
必ず君を現代に送り届けるから、待ってて。
謙信様を…裏切っては帰れないんだ…)