第12章 忍びの庭 後編
パニックになっている愛を宥めるように、
三成が満面の笑みで声をかける。
『うん。お前にぴったりだ。素敵だぞ愛』
秀吉は懐から綺麗な手ぬぐいを出し、
愛の顔に残る涙の後を優しく拭う。
「三成くん…秀吉さん…」
『黙ってもらっとけ。主役のお前が晴れ着着ないわけにいかないだろ?』
政宗も愛の元に近づき、頭をクシャクシャと撫でる。
『馬子にも衣装…だろ?政宗』
光秀も言葉は意地悪だが、表情は優しい。
『ま、そのグチャグチャな顔じゃ、笑えるけどね。
でも、似合ってるから、安心したら?』
家康が改めて声をかけた。
『それを着て、宴に出るが良い。
織田家ゆかりの姫として、見劣りはしない』
信長の言葉に、不安そうに秀吉を見上げる愛。
『良かったな。お前も立派な安土城の一員だからな』
その言葉に、込み上げてくるのは嬉しい気持ちと、
申し訳ない気持ち。
愛は改めて自分にかけられた着物を見て、胸が痛む。
(皆んなの気持ちを…無駄にしてしまうんだ…)
でも、今は有難く頂戴しよう。
その気持ちさえ踏みにじってしまうわけには行かないから…。
愛は、全員を見渡すと、
「ありがとうございます」
と、深く頭を下げた。
(佐助君…私…こんなに大切な人たちを裏切って帰っていくんだね…)