第12章 忍びの庭 後編
秀吉が、信長に促され広間を出る。
愛は、泣きじゃくっていて気づいていなかった。
『お前、いい加減泣きやめよ。ひどい顔だぞ』
政宗が愛のほっぺたを引っ張りながら笑う。
『政宗、その顔の形になったら目も当てられないぞ?』
それを見て光秀も笑っていた。
『あんたの泣いてるとこは見たく無いのに…』
家康は、誰にも聞こえないくらいの呟きを漏らす。
『家康様、何か仰いましたか?』
隣で三成が家康の顔を覗き込むが、
『言ってない。本読みすぎて幻聴聞こえたんじゃ無いの』
と一蹴されている。
『最近は、ちゃんと寝る様にしてるんですけどね…』
今度は三成がなにやらブツブツと独り言を唱え始めてしまった。
『おい、お前たち、愛で遊ぶのもいい加減にしろ!』
襖を勢いよく開けて秀吉が戻ってくる。
その後ろには、艶やかな女物の晴れ着が掛かった衣桁があった。
みんなの目線が一斉にそちらに集まり、愛もつられて泣きながら目線をやる。
「凄い豪華…誰か結婚するの?」
愛が頓珍漢な事を言うと、
『けっこんとはなんだ』
信長が愛に訊いた。
「あ、えっと…祝言のことです」
愛には、その晴れ着は結婚式の色打掛のように豪華に映っていた。
『それは問題発言だな、愛』
秀吉が怪訝な顔で言う。
状況がわからない愛はすっかり涙を引っ込めていた。
『これは、貴様にやる着物だ、愛』
信長がそう言うと、
『俺たちからのお返し…と言う名の贈り物。
誕生日なんでしょ、二日後』
家康が説明する。
「へ?」
秀吉は、急なことに頭がついて行かない愛の腕を掴んで立たせ、
着物の側に立たせた。
衣桁から着物を取り、愛に羽織らせると、
『俺たちみんなで選んだ、お前の誕生日祝いだ。
ふたつき、よく頑張ったな。改めて礼を言う。
ありがとうな、愛』
漸く、この豪華な着物が自分のものだと理解すると、
「いやいやいや!私こんな高価なもの貰えないよ!
みんなの晴れ着だって、反物代は私が出してないんだし!
第一、こんなお姫様みたいな豪華な晴れ着、着こなせない…」
『とてもお似合いですよ、愛様』