第12章 忍びの庭 後編
「それは、胡蝶蘭といいます。
私の故郷では、お祝い事に送られたりする、とても縁起の良い花です。
育てるのも難しく、大変高価な花としても有名ですが…」
『信長様にはぴったりの上品な花だ』
秀吉が感心して声を漏らす。
『胡蝶蘭か。響きもいいな。して、花言葉とやらは?』
「はい。花言葉は〈幸福が飛んで来る〉です。
この先、信長様の元へ沢山の幸福が飛んで来るように。
天下布武を成し遂げたその先にも、未来永劫ずっと…
という気持ちを込めました」
愛の言葉に、信長はとても満足そうに
『その全ての幸福を、お前もしかと見届けるがよい』
と、言うと立ち上がり晴れ着に袖を通した。
信長が晴れ着を着ると、手伝っていた女中たちからも感嘆の声が上がる。
『これは…』
秀吉は言葉を失くし、眩しいものを見るように目を細めた。
『改めて、お前の腕は安土一だな、愛。
今まで見たどんな献上品の着物よりも信長様にお似合いだ』
政宗が愛を褒める。
『確かに。俺たちのもそうだが、やはり近くで見ていたお前だからこそ、
この晴れ着は仕立てられたに違いない。
安土の職人に、そこまで信長様の目を知っている者はいないだろうからな』
光秀も柔らかな口調で言う。
『愛様は、やはり心がお綺麗なのでこの様に仕立てる着物も
優しく上品なのでしょうね。そう思いませんか家康様』
三成が家康に同意を求めると、
『なんでお前が俺に意見を求めるんだよ…。
まぁでも、政宗さんの言う通り、
どんな献上品よりも素晴らしいってのは認める…』
「皆さん…ありがとうございます!
こんな経験…もう一生できないかもしれませんから…。
本当にありっ…ありがとうござ…ましたっ…」
(そっと置いていかなくて良かった…みんなの着てる姿…
見られて良かった…本当に…)
感極まって涙が止まらない愛に家康呆れた声で話しかける。
『なんで作ってくれたあんたが、お礼言いながら泣いてるの…馬鹿じゃないの』
『おい、家康、そんな言い方無いだろ』
秀吉が家康を叱る様に言う。
「だって、嬉しくて…私の服で…喜んで貰えたから…
みんなの事想って…一生懸命作ったから…」
泣き止まない愛に一同は困ってしまう。
『秀吉、あれを』
『はっ』