第12章 忍びの庭 後編
『藤の花の意味は、なんなの?』
今度はしっかり愛を見上げて家康が訊く。
「藤の花の、花言葉は〈優しさ〉です」
その言葉に光秀は驚きを隠せない。
『散々意地悪された俺に、優しさとは、どういう風の吹きまわしだ』
『愛も嫌味言えるようになったんだね』
家康も驚いたように声を出す。
「ち、ちがうよ!本当にそのままの意味だよ。
確かに光秀さんは意地悪な時が多いけど…でも、本当に悩んでる時は、
いつも真面目に答えてくれたし、その中にいつも優しさを感じてたから…」
『お前は、本当に馬鹿のつくほどのお人好しだな』
光秀が面白そうに笑った。
「あと、藤の花には〈絡みつく〉っていう意味もあるので、
敵の絡みついて情報を聞き出す光秀さんにはピッタリですよね」
愛が少し拗ねるように言った。
『はははは。その方がしっくりくるな。
しかし、俺を相手に優しいなんていう奴はお前くらいだ。
ありがたく着させて貰うとする』
光秀はそう言うと、愛の頭をクシャクシャと撫でて座った。
『おい、愛。俺のはどんな意味があるんだ?』
政宗はそう言うと立ち上がり、愛を急かす。
「うん、じゃあ次政宗合わせさせてね」
そう言うと、晴天を思わせる鮮やかな天色の生地に、
刺繍も鮮やかな海棠色の撫子があしらわれた晴れ着を手に取る。
『政宗様の派手さがとても上品に表されてますね!』
三成らしい感想を伝えると、愛の顔も綻ぶ。
「政宗なら、絶対着こなせると思ったから。裄もぴったりだね。よかった」
『いいじゃないか。お前らしい配色だ。で、なんで撫子なんだ?』
政宗がキラキラとした目で愛を見る。
「撫子の花言葉は〈大胆〉だよ!政宗にはこれ以上ピッタリなのないでしょ?」
そう言うと、コロコロと笑う。
『お前なぁ。光秀とはえらい違いじゃねぇか。でも、相当嫌いじゃない』
政宗は満更でもない顔で、自分の晴れ着をマジマジと見る。
「凄くかっこいいよ!嬉しいな」
『やっと惚れたか?』
そう言いながら、愛の顎を持って自分に向ける。
『こら、政宗。愛が困ってるだろ!』
秀吉が、すかさず間に入り政宗の手を払った。
「じ、じゃあ次、秀吉さんお願いします」